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青柳碧人「むかしむかしあるところに、死体がありました。」 教訓も容赦せずミステリーに

 収められた五つの短編は、いずれも冒頭から驚きの連続である。一寸法師や花咲か爺(じい)さんなど、おなじみの人物が登場することで、だれもがよく知る日本昔ばなしのはじまりかと思いきや、そこで恐ろしい殺人事件が起こるのだ。

 第1作「一寸法師の不在証明」は、三条右大臣の娘である春姫が参詣(さんけい)から屋敷へ戻る途中、鬼に襲われる場面で幕を開ける。すかさず同行していた一寸法師が針の刀を持ったまま鬼の腹の中に入り込み、じゅうぶんに懲らしめ、みごと退治してみせた。ところがその2日後、ある村で殺しがあったとの報告が屋敷に届く。現場の状況から浮かびあがった容疑者は、なんとも意外な人物だった。だがそれはありえない。確たるアリバイがあったのだから。

 「花咲か死者伝言」では殺されたお爺さんがダイイングメッセージを残し、「密室龍宮(りゅうぐう)城」では殺人現場が密室だった。ただ犯人捜しの探偵小説を繰り返すのではなく、本格謎解きものの代表的な趣向やスタイルがそれぞれの作品ごとに設けられている。見るなの禁、打ち出の小槌(こづち)、鬼ケ島といった、原典における特有の設定、小道具、場所をそのまま生かしつつ、大胆な発想、奇抜なトリックを導入することで、新たな民話ミステリーへと再生しているのだ。

 一方、昔ばなしならではの語り口のせいもあり、殺人事件の生々しさは薄められ、読みごこちがいい。人を喰(く)ったような題名や本のカバーイラストから醸し出されるパロディーのおかしさも加わり、むしろ愉(たの)しみながら頁(ページ)をめくっていく感じだ。

 しかし、本作の味わいはそれだけにとどまらない。真相の驚きとともに、しみじみとした感傷を覚える作品も少なくなかった。それは「善良な者は幸を得る」「正義をもって悪い奴(やつ)らを退治せよ」など、各話にそなわっていた教訓までをも作者は容赦しないからだ。全編、夢中で読まずにおれない多様な魅力のつまった一冊なのである。=朝日新聞2020年2月29日掲載

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 双葉社・1430円=15刷11万部。19年4月刊行。20年本屋大賞候補作。「昔話とミステリーの組み合わせの妙がある」と編集部。