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萩原ケイクさん「それでも愛を誓いますか?」インタビュー 子どものいないミドサー女性の心情、繊細に

文:若林理央

アラサーとはもう言えない、リアルな35歳の心情

――これまでミドサー・既婚・子どものいない女性にスポットをあてた漫画はあまりなかったように思います。ストーリーを作る際、何か意識していたことはありますか?

 今は20代女性やお子さんのいる専業主婦の方など、純とは異なる背景の方にも読んでもらっているようなのですが、当初は純と同じ30代女性で、何かに悩んでいる女性にターゲットを絞って描き始めました。「私の分身がここにいる」と読みながら思ってもらうことが目的でしたね。

 35歳は仕事でもプライベートでも転機となる年齢です。雑誌などのアンケートでも34歳と35歳で項目が分けられることがほとんどだし、仕事を探すのが難しくなってくるのも35歳くらいからではないでしょうか。生きづらさと向き合っている主人公と同年代の女性たちに「私の気持ちを代弁してくれている漫画がある」と感じてほしくてスタートさせました。

――他の世代や異なる背景を持つ女性たちにも愛されるようになったのはどうしてだと思いますか?

 『それでも愛を誓いますか?』はセックスレスの問題だけではなくて、介護や女性が社会的基盤を持って働くことについても描いています。

 プライベートで何があっても、それはそれとして仕事を頑張らないといけない。日常生活をいとまなければならない。すべての女性の現実でもありますよね。自分でも予想外だったのですが、結果として幅広い世代の方に読んでいただけるようになりました。

ウェブ記事を流し読みして、ストーリーが時代に即しているか確かめる

――リアルな部分にプラスして、本書には思わずキュンとしてしまう、昔ながらの女性向けコミックの魅力もあります。特に読者人気が根強い真山くんというキャラクターにそれが表れていますね。

 純が職場で知り合う一回り年下の男性ですね。彼は交際経験がなく、コミュニケーションも苦手です。「最近の若者は…」と思わず言いたくなる人物です。真山は最初ずっとマスクをして自己防衛しています。実際に日常生活で、マスクをしている20代前半の男性たちをよく目にしますよね。彼らからもヒントを得ています。

――純と隣にいるのにゲームアプリでしか会話できない場面も出てきますね。いわゆるオタク男子なのに、まっすぐで純粋です。私も真山くんのファンで彼が出る場面はセリフが暗記できるくらい読み込んでいます。

 「人気が出てほしいな」と思って登場させたキャラクターなので、読者の方々から好評をいただいていて嬉しいです。

 彼も純と同じように物語の中で成長していきます。真山のマスクは彼の心の変化のツールとして使っています。真山がどう変化していくのか、楽しみながら読んでみてほしいですね。

――他にも純の夫の武頼や、武頼を誘惑するシングルマザーの沙織がメインキャラとして登場します。それぞれが抱えている問題は「萩原先生がぜんぶ経験しているのかな?」と思うほど生々しいです。

 もちろん経験していませんよ(笑)私はほぼ毎日インターネットでWeb記事のタイトルと本文の一行目を見て、今社会で問題になっているのは何なのかチェックし、本書を描くときの参考にしています。「生々しい」と感じる理由はそこにあるのかなと思いますね。

 時が経ってから読むと「2020年前後はこんなことでみんな悩んでいたんだな」という感想に変わるかも知れません。ただ記事を最後まで読むと逆に感情移入しすぎて、物語のテーマがぶれる可能性もあります。あくまでもタイトルと本文一行目までをざっと流し読みするようにしています。

繊細な内容や登場人物の葛藤も、まるごと読者に届けたい

――物語を作るうえで特に苦労していることは何でしょうか?

 私はこの漫画を描くうえで「一話一話が神回だと思ってもらえるようにすること」を意識しています。セックスレスや35歳女性の就職の難しさ、介護問題など、扱っている内容もセンシティブなので、描きながら「同じ悩みを抱えている読者の方が傷つかないかな」と悩むことが多いです。

 それでもあえて描いてプロット、ネームを提出し、担当編集さんにその表現をどうするかのジャッジをお願いしています。純の抱える葛藤をまるごと漫画に包み込んで、読者の方に届けたいという願いがあるからです。

――担当編集の方ともお話したのですが、「ネームやプロットで内容はあらかじめわかっているのに、できあがった漫画を読むと、すっと心に入ってくるので毎回びっくりする」とおっしゃっていました。

 漫画は読者から共感を呼ぶタイプのものと、「主人公のようになりたい」と理想を描くタイプのものに分かれますね。『それでも愛を誓いますか?』は頑張る純に共感する一方、一途な真山が既婚者の純に惹かれていく展開は、少し非現実的でありながらも女性たちをときめかせる要素があるのではないかと思っています。共感型と理想型、どちらの要素も含んだ漫画は貴重だと言われたこともあります。

数年後、読み返すと違う印象になる漫画

――今(2020年1月)、電子コミックサイト「めちゃコミ」で女性コミック部門人気ランキング1位を記録し続けている『それでも愛を誓いますか?』。単行本化にあたっては、初めて読む方とめちゃコミで読んでいた方、両方が本書を手に取ることになりますね。

 初めて読む方には、今までスポットがあたらなかった背景をもつ女性が懸命に生きる姿を自分の分身のように感じてほしいです。既に電子コミックで読んでいる方も、単行本で読み直すとコマ割りの印象もまた違って新鮮な気持ちになると思います。キャラクターの初期設定など、単行本限定の描きおろしも準備していますよ。

 読者の方々には読み終えた後も家に置いておいて、二、三年後、ふと何かに悩んだときに取り出して読み返してほしいですね。そのときの自分の環境や立場で感想が変わるはずです。

――萩原ケイク先生の漫画が単行本化されるのは初めてですよね。

 ええ。漫画家デビューする前は原稿がボツになったこともあったし、いろいろと苦労しましたが、めちゃコミで人気が出たことで出版に至れました。

 魂をこめて作った漫画です。実は『それでも愛を誓いますか?』には秘められたメッセージもあるんです。実際に読んでもらうことでそれを伝え、読者の方それぞれの人生に生かしてもらえたらと思っています。