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「背高泡立草」書評 島ゆかりの一族描く芥川賞受賞作

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2020年03月14日
背高泡立草 著者:古川真人 出版社:集英社 ジャンル:小説

ISBN: 9784087717105
発売⽇: 2020/01/24
サイズ: 194×134mm/152ページ

草は刈らねばならない。そこに埋もれているのは、納屋だけではないから。記億と歴史が結びついた、著者新境地。第162回芥川賞候補作。大村奈美は、母の実家・吉川家の納屋の草刈り…

背高泡立草 [著]古川真人

 西日本新聞の記事で知った。今期芥川賞に輝いた『背高泡立草』の舞台は的山(あづち)大島(長崎県平戸市)らしい。それならそうと早くいってよ。的山大島なら、私も平戸から出るフェリーで行ったことがある。
 小説では2世代5人が島に向かう。実家の草刈りをするのが目的である。この家はやがて90歳になる敬子婆さんが管理しているが、住む人がいない今は黴臭く敷地の草は生え放題。
 だが、現在の姿からは想像できないドラマがこの島と家には眠っていた。遠い蝦夷(えぞ)まで行って帰ってきた鯨取りの男。釜山に向かう途中で難破し島の漁師に助けられた朝鮮人の労働者。カヌーで家出して島にたどりついた無謀な中学生。
 デビュー以来、古川真人は一貫してこの島にゆかりの一族を描いてきた。ただし作風が地味なので、いまいち魅力が伝わりにくかった。本作も親切な小説ではないが、今度は立派なご当地文学になり得ている。草を刈った意味があったよ。