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市川紗椰さん「鉄道について話した。」インタビュー 鉄道が好き、街が好き…人気モデルが思い描く「いいな線」

文:吉野太一郎 写真:篠塚ようこ

鉄道は「自由の象徴」だった

――市川さんが鉄道に魅せられたきっかけは、何だったんですか?

 理由の一つはやはり、日本を離れてたから。鉄道が好きな子は、幼稚園ぐらいで別の趣味に移る子がほとんどです。でも私は4歳でアメリカに引っ越したので、他のものに移らなかったんです。

――アメリカっていうと、車社会のイメージがありますが

 私がいた地域はそうでしたね。普通、子どもだけでどこか行くこともない。日本は小学生の通学とか、鉄道があれば子どもだけでも一人で行ったりするじゃないですか。たまに日本に来るたびにいつも鉄道を見て「いいなあ」と、自由の象徴に見えました。

 高校生でまた日本に住むことになって、西武多摩川線沿線のアメリカンスクールに通ったんですが、初めて日常的に鉄道に乗ることになりました。場所柄、電車だけで移動する人は少ないかな。同じ学校の生徒はスクールバスで通ってたけど、私はずっと電車で行ってましたね。

――貨物専用時刻表を駆使したり、モーター駆動の仕組みを解説していたり、そういう知識はどこから仕入れているんですか?

 専門書とか、専門誌とか、詳しい人に聞くとか、鉄道好きな方とまったく同じです。雑誌は毎月読むわけではないけど、『鉄道ダイヤ情報』とか『鉄道ジャーナル』とか『旅と鉄道』とか。神保町の書泉グランデさんの鉄道書籍フロアによく行くので、専門書の新刊を見たりしていますね。

『鉄道について話した。』より 撮影・東 京祐

「貨物の気持ちになりたい」

――「貨物列車の時刻表を眺めながら『貨物の気持ちになりたい』と思っていた私」と本文にありましたが、どんな気持ちだったんですか

 私が意識しないだけで、ほとんど旅客が通らない貨物専用線を、一日中、昼間も夜中も全国をいろんなものが動き回っていて、日本の物流を支えてる。見たことのない景色を走って、ここを走っているのかな、どんな景色が見えるのかな、なんて、そういうのを考えるのが好きなんです。

――本文には「むき出しのメカ感」「ピタゴラスイッチ的な快感」「ディストピアSFのような泥臭さ」といった独特の表現があります。市川さんが魅せられたのは、鉄道というシステムでしょうか

 そうですね。鉄道というより、街が好きなんですよね。アーバンプランニングの一部として、都市部だけじゃなくて、街と街とのリンク、街と建物とのリンクとか。人工物が自然を制するという要素も好きです。

――モノレールも好きなんですね

 まさに街との一体感ですね。高架の上から街を眺めるところとか、建物の間を縫うようにすいすい進んでいくところとか。それにちょっとレトロフューチャーじゃないですか? ビルからビルをヒュンヒュン移動する感じも、昔の未来都市感があっていいですね。

 モノレールって、何らかの理由があって普通の鉄道や地下鉄ではなくモノレールにしてるわけですよね。背景を調べると物語があって、面白いものが多いですね。

ドイツ・ブッパタールの「空中鉄道」(Photo by Getty Images)

――というと?

 ドイツにブッパタールという街があるんですが、中世に出来上がった街に、新たに交通システムを造ろうにも、場所がないわけですよね。だから川の上やビルの間を無理やりカーブしたりして造った背景も面白いですよね。私、そのモノレールに乗るためだけにドイツに行ったんですが、点検中で乗れませんでした。

 一方で大阪のモノレールは、モノレールを造って後から街を造ったので、だだっ広い、何もないところを高架で走っている不思議さがありますね。

『鉄道について話した。』より 撮影・東 京祐

日常で出会えるいちばん大きいメカ

――ガンダムもお好きなんですね。ロボットアニメと鉄道趣味は共通するものがあるんですか?

 いわゆる「兼オタ」は多いですよ。私が鉄道好きな理由の一つに「日常で出会えるいちばん大きいメカだから」ってのがありますね。それに、膨大なデータ量と情報を覚えていかに自分の中で体系立てていくか。サイコ・ガンダムとジオン軍のモビルスーツの系譜とか、鉄道も一緒なので。

――海外の鉄道好きとも交流していますが、きっかけは何だったんですか?

 私が海外の人なので、海外の人と触れあっているという感覚はないんです。ドイツやアメリカは友人が住んでいて、その人経由で話を聞いたのがきっかけです。一回話すと違いが分かって面白くなって、今は意識的に、鉄道好きがいたら根掘り葉掘り聞くようにしてます。

――「鉄道ファン」というジャンルは世界的に認知されているんですか?

 日本とヨーロッパは多いですね。イギリスはとても高尚な趣味として認知されてます。鉄道模型がありますし、ドイツも人気があります。

アメリカ・ニューヨークの地下鉄(Photo by Getty Images)

世界の鉄道ファンを訪ねて交流

――アメリカでは「foamer」(鉄道に興奮して口から泡を吹いている人という意味)という鉄道ファンを揶揄する言葉まであるとは知りませんでした。あまり市民権は得てないのかなと思ってしまいましたが…

 この言葉を知っている時点で、だいぶ鉄道が身近なんだなって思いました。サンフランシスコ、ボストン、ニューオリンズの路面電車やケーブルカーは、ファンが結構いますけど、アメリカはやっぱり私が知る限り、貨物好きが多いですね。あとは昔走ってたSLを復活させるような保存鉄道は、ノスタルジーを求める年配の男性が好きですね。

――世界各地の鉄道を訪ねる中で、日本の鉄道の特徴は何だと思いましたか?

 やっぱり鉄道網が発達してるので、とにかく路線が多くて密接。それが楽しいですよね。全部つながってどこでも最終的に行けちゃう。京急とか東急とか、鉄道会社ごとにカラーがはっきり分かれてて、個々のファンもついてる。それで相互乗り入れもしている。日本らしい楽しみ方だなと思います。

JR九州の特急「指宿のたまて箱」(撮影・朝日新聞社)

――海外の人に見てほしい市川さんのオススメは、どんなものですか?

 JR九州の「指宿のたまて箱」っていう特急です。観光列車なんですが、白黒のツートンカラーで、こんなアヴァンギャルドな鉄道デザインがあるんだと驚くような外観。車内もかわいくて、ほとんど木材にカラフルな柄のテキスタイルを使っていて、カフェとかだったらおしゃれな空間だろうなと思います。日本人にも是非見てほしい。

 私は乗る側としての責務も果たしたいんですよね。流行るタイミングに関係なく、定期的に乗って支えて、魅力を発信してお勧めしていきたいです。

かつて銀座を走っていた都電。1967年12月9日のこの日をもって廃止された(撮影・朝日新聞社)

路面電車を東京に走らせたい

――「夢は自分で路線を作る」とのことですが、どんな路線を造りたいですか?

 「いいな線」って言って、あったらいいなという路線を考えたりする遊びがあるんですが、実在するもので十分楽しいんで、ここ数年はあまりしなくなりましたね。

 でも路面電車は可能性を持っていて、バリアフリーで「ちょい移動」に使えるものって、需要がすごくあると思うんです。できれば東京に路面電車を復活させたいです。銀座とかよくないですか? 目黒、中目黒、代官山を結ぶ路線があっても便利だし、乗りながら東京を見るのもすてきだと思う。

 東京はかつて路面電車が縦横無尽に走っていましたけど、高度成長期を経て落ち着いてバブルを経て、成熟した今の東京の速度感にすごく合うと思うんですよね。場所がもうないから難しいですけど、車を減らす観点から環境にもいいと思うし、もっと人にやさしい東京になれると思います。

市川さんが「偏愛路線」の一つに挙げるポルトガル・リスボンの路面電車(Photo by Getty Images)

――日本でも路面電車が活躍する都市は多いですね。富山や札幌は、LRTや路面電車を新設・延伸しました

 富山もそうですし、日本でも路面電車が成功してる街は多いですから。熊本なんかすごくいい例だと思いますけどね。駅前から乗って、カフェが集まっている場所を通って、熊本城の方にも行ける。松山も、JRの駅を降りて道後温泉に行ける。

 ポルトガルのリスボンとかハンガリーのブダペストは、観光路線にもなっていて、結構いい場所を巡って通ってる。走ってる街の絵も雰囲気があって、あれにわざわざ乗りたいっていう人たちも各地からやってきます。いいんだよね。とにかく乗りやすくて、手軽でいい。駅に入ったり、地下にもぐったりしなくていい。

 海外から東京に来ると、地下鉄は発達してるけど、タクシーが高い分、近くは飛ばして遠くに移動してしまうことがあるみたいです。 電車でちょっとしたところへ、景色を見ながら行けるようになれば、もっと街に人が動くきっかけになる気がします。

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