ブログから本に、そしてツイッターはやめた
――本作はブログで書いていたものを電子書籍にしたものが元になっているそうですね。元の文章があったとはいえ、これだけ長いものを書くのは大変だったと思いますが、どれくらいかかりましたか。
去年春に奈良女子大に編入して、引っ越しや勉強で忙しかったんですが、夏くらいから集中して書き始めました。授業後にカフェに行って夕方から閉店くらいまでずっと飲み物一杯で粘って、一回書き始めると集中しちゃうので5時間くらい書いて。このへんの奈良の喫茶店はほぼ行き尽くしました。
――書く時にどんなことが大変でしたか。
過去のことを思い出す作業ですかね。エッセイっていう性質上、自分の体験を書かなければいけないので、なるべく正確に思い出すのと同時に、思い出すことで自分に精神的な負荷があったりして、よく悪夢を見ました。辛い体験を思い出す作業が自分にとっては苦痛になることもありましたね。
――ご自身の体験を赤裸々に書かれていますが、それを出版することについてためらいはありませんでしたか。
どうでも良かったです。失うものは何もないと思っていたので。それで人が何か学んでくれる、学んでくれるっておかしいですけど、何かを感じとってくれるなら、それはそれで儲けなので。自分の全部をさらけだす覚悟でいかないと、編集の方とか、この本の制作に関わってくれた人すべてに失礼かなと思って。
――出版した後でご自身の変化はありましたか。
ツイッターをやめました。ツイッターのフォロワーが本を出してからすごく増えたんですけど、一つ気づいたことがあって。フォロワーの人は全員私のことが好きとか気になってフォローしたわけではないんだなって。ある一つのアカウントに飛んだらめちゃくちゃ悪口書かれていたんですよ。だからフォロワーっていうのは多分、自分に向けられた銃口の数なのかなと思って。そういう銃口が増えた気はしますけど、好きになってくれた人も増えた気がするのでイーブンだと思っています。そういうふうに一つ大人になったのが自分の変化だと思います。それに、叩かれる覚悟ができたなっていうのも私の変化だと思います、すごく大きな。
中退4回、それでも生きていけた
――作家の覚悟という感じですね。この本のテーマは色々あると思うんですが、何が早乙女さんのいちばん伝えたいことですか。
もともとは不登校ですね。私は結構所属をぽんぽん変えていて。この間数えたら人生で中退4回してたんですよ。そういう人でも生きていけるし、学校に行かなくても生きていけるっていうメッセージをティーンエイジャーに向けて書くつもりでした。
どんどん社会は変わってきていて、インターネットで学べるオンラインハイスクールが増えてきたりしていて、学校に通いたくない子供への理解があるスクールも多くなってきたんですけど、ただ一方で、マイナスの印象になることも感じます。やっぱり社会的な理解がまだ十分足りてないんだなって思うことがありますね。
――どういうところが不登校や中退でいちばん辛かったですか。
バイト先で色眼鏡で見られたことですかね。今はもう大学に入っちゃってるんで、高校行って普通に進学したんだろうなって思われるので感じないんですけど、17歳、18歳で高校に行ってないと、かなり色眼鏡で見られたりして。20代の時のことですが、パート先のおばちゃんが私がお金なくて高校行けないんだと思って、タッパでおかずを持ってきたこととか。すごく探られるとか勘ぐられることですかね。お金がないとか、特別な事情のある子でとか。腫れ物扱いというか、いじめの対象になったり。バイト先とか学校の外でもいじめはあるので、そういうネタにはされましたね。
――この本を読んで高校中退者に対してすごく偏見があるんだなって知りました。
風当たりは冷たかったりするんですけど、その理由をちゃんと説明できれば大丈夫じゃないかなと私は思ってます。なんとなく辞めたとかめんどくさくて辞めたとかそういうのじゃなくて、こういう思いがあって辞めたっていうのがあれば。それは履歴書に書くことはできないですけど、接した時に、人となりで「こういう人なんだな」ってわかってくれたりするので。もちろん全員じゃなくて、一くくりに中退っていう枠で足蹴にしたりする人もいるんですけど、そういう人は相手にしなくて大丈夫かなって思います。中退したちゃんとした理由を伝えることができれば、大丈夫なのかなって。それでわかってくれなかったらその人は多分相手にしなくていいと思います。だから、この本も中退とか高卒認定とかそういう人間に偏見がある人に読んで欲しいです。「なんだこんな奴が書いたもの」って絶対思われそうなんですけど、そんな人に読んでほしいですね。
子育てって朝顔みたいなもの、必要以上に手入れしないで
――実行しなかったけど、人間関係が原因で高校を中退しようかと悩んでいた小学校時代の同級生のエピソードもありましたね。今の時代はSNSでもつながっているので、一度友達関係がうまくいかなくなると一気に学校で居場所がなくなる感じがありますが、若い世代に向けて何か伝えたいことはありますか。
情報を切り落とすことも大事ですよっていうことですね。私はSNSでかなり痛い目を見ているので、そこから思ったのは、SNSって見なくてもいいものを見てしまうんですよ、すごく。世の中には知らぬが仏というか、知らなくていいことがたくさんあるなっていうのを、SNSを通じて学びました。情報の多い時代だからこそ自分でシャットアウトする部分を決めないと、どんどん自分の精神衛生も悪くなっていくので。
――逆に親の世代やその上の世代に対してはどうですか。
私はまだ子育てしたことないし、多分する予定はないし、一生その経験はできないかもしれなくて、その人たちにこうああしろこうしろっていうのは言えないですけど。でも、色々親と一悶着あった私から言わせてもらうとすると、子供も、生きてるんですよ。子供にも親と同じように気持ちの揺れ動きがあったり、色々自分なりに考えて生きているんです。でも、転ばぬ先の杖を持たせたがるんですよ、親って。この子が将来困らないように色々やらせてあげようとか、あれさせてあげようと思うんです。けど、意外と子供って転んでも大丈夫なんですよ。なので、あんまり杖を持たせすぎないでくれっていうか。
朝顔を育てるのと似てるなって思うんです。朝顔を育てる時って支柱を立てるじゃないですか。大きく育てるためにこれくらいの支柱をしてあげないとって親がどんどんやってくんですけど、必要以上に手入れしすぎて枯れていくこともすごくあるので。例えが適切かどうかわからないですけど。意外と子供ってタフなので、そんなに手入れしなくても大丈夫なんです。特に今子育てしていて、色々英語とかとても流行っていたり、習い事もこれがいいあれがいいってすごくあったりすると思うんですけど、大丈夫なんです、そこそこで。
――最後に読者のみなさんに伝えたいことはありますか。
そうですね、とりあえず生きてればいいと思います。生きてれば大丈夫かなって。私も一回自殺(未遂)した身でこんなこと言うのもあれだし、今私が生きててよかったって言うのも結果論かもしれないですし、自殺も本当に選択肢の一つではあるとは思うんですけど。特に若い世代はこの後何が起こるかわからないんで、そこで死ぬのはちょっともったいないかなって思います。あとは、逃げていいんだと思います。私は逃げることでいろんな人から叱られてきたんですけど、自分を守るために逃げることは悪いことではないんで。自分が本当にこのままじゃ死んでしまうって思った時は、躊躇なく、全力で、裸足ででも、とにかく逃げてほしいです。
――今、早乙女さんが生きていてよかったなって思うことは何ですか。
「ヒプノシスマイク」っていう、ラップのコンテンツがあるんですけど、今年の7月にアニメ化するんですね。好きなアニメや昔やっていたアニメがリメイクされて続編があったりするので、「これ死んでたら見れなかったぞ」って思います。すごい些細なことかもしれないんですけど。
――これからどんなものを書きたいですか。
小説を書きたいです。若い世代、特にティーンエイジャーに向けて小説を書きたいなって。ティーンエイジャーが本読むかわからないんですけど、今の私の年齢でしか書けないティーンエイジャーの姿があるだろうなと思うので、自分が経験したことも含めて、書いていきたいです。
◆取材を終えて
最初のあいさつが高い声でかわいらしい印象だったけど、インタビューではぽんぽんとテンポ良く歯切れのいい答えが帰ってきて、頭の回転が早い人だと思った。考え方も、自立していて、自分を持っていてとても大人びている。一方、好きなことについては思い切り笑顔で熱っぽく話すので、そのギャップに驚いた。知的で冷静な中に、熱いものを秘めている。それが作品となって昇華されているのかもしれない。次作が楽しみだ。