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「女たちの中東 ロジャヴァの革命」書評 全員参加で指導者は女性が半数

評者: いとうせいこう / 朝⽇新聞掲載:2020年04月25日
女たちの中東ロジャヴァの革命 民主的自治とジェンダーの平等 著者:ミヒャエル・クナップ 出版社:青土社 ジャンル:社会・文化

ISBN: 9784791772537
発売⽇: 2020/02/25
サイズ: 19cm/430,36p

女たちの中東 ロジャヴァの革命 民主的自治とジェンダーの平等 [著]M・クナップ、A・フラッハ、E・アイボーア

 中東の政治状況は私たちには複雑で難しい。ことにシリアをめぐる動きは刻々と変化しており、トルコとの関係や、イスラム国など様々な組織の出現によって事態が見えにくい。
 そんな中で世界史においてきわめて重要な運動がシリア内に実現していた事実を、本書は少し細か過ぎるほどの報告をもって教えており、無視しがたい。
 シリア北部のロジャヴァ地区で2011年以降、弾圧されてきたクルド人たちを中心に諸民族をつないだ民主化運動が起こり、なんとそこでは「全員参加」の民主主義があり、女性差別が許されず(むしろ「社会の解放は女性の解放なくして不可能」というクルディスタン労働党の考えが基底に置かれる)、「二重指導原則」として社会組織に指導者を2人置くうちの1人は女性とする、さらにエコロジーを重要課題とするなど、明らかに世界の先端を行く政策が行われたのだ。
 そこにはアブドュラ・オジャランという中東の賛否両論ある政治指導者の考えが浸透しているのだそうで、その上で家父長制が打倒され、家庭内暴力が罰されるという生活に密着したシステムから、兵士にも女性たちを登用する軍備の実現にもなっていく。これはほとんど映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の世界である。
 オジャランはまた「社会的経済」を唱え、新自由主義でも社会主義でもない「富の正しい再分配」を支持している。一方でテロリストとも呼ばれた彼がどのような実践に影響を与えるか、厳しく検討したくなる。
 だがしかし、最後にある解説で我々はその稀有な実験が7年余り続いたあと、トルコの攻撃によって押し潰されたことを知る。背後にはトランプ大統領による米軍撤退があった。強大な権力が明日の世界の可能性を摘んだのだ。
 しかしオジャランの影響はまだその地を離れてはいまい。私たちはかの地への注目を絶やすべきでない。
    ◇
Michael Knap 歴史家▽Anja Flach 文化人類学者▽Ercan Ayboga 市民活動家。