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藤本ともひこさんの絵本「いただきバス」 ダジャレに笑い、こちょこちょマネして

文:日下淳子 写真:本人提供

作りたかったのは、子どもが夢中になる読み聞かせ絵本

――藤本ともひこさんのいただきバスのシリーズ(鈴木出版)は、読み聞かせで毎回子どもたちがケラケラ笑いだす楽しい絵本。「出発しバース!!」とダジャレをまじえてしゃべるバスが、ねずみを山あり谷ありの道に案内してくれる。崖ではバスがびろーんとのびたり、足が生えて飛び出したり、予想外の展開にワクワクさせられる。

 『いただきバス』は、目の前の子どもたちと一緒にふざけながら、おもしろく読める絵本を作りたかったんです。もともと教育委員会の仕事をしていたのですが、縁あって保育園で遊びや造形活動の仕事をすることになりました。保育園で「読み聞かせ」に出会う中で、読み聞かせに特化した楽しい絵本を作りたいと思うようになったんです。

 『いただきバス』は、ダジャレをきかせた語尾のところや、こちょこちょとくすぐる場面が子どもに人気で、「一緒にやってみよう」なんて言わなくても、子どものほうから真似してくすぐり出すんですよ。ぼくは、バスがうずまきの形になるところで、絵本ごとぐるぐる回して読むのが気持ちよくて好きなんです。絵本はこう読まないといけない、なんていうことはなくて、この本も自分なりに楽しく読み聞かせてほしいですね。

『いただきバス』(鈴木出版)より

 ぼくが絵本を作るとき、最初に描く絵コンテは、かなり自由に作っています。まずは何のストッパーもかけずにアイデアをそのまま描いてみて、しつごすぎたり、奔放すぎたりするものを後から修正します。編集部にはじめて見せるときは、いつも提案や懸念点を指摘されまくりですよ(笑)。続編の『いもほりバス』なんて全然お話が変わってますね。『いただきバス』は、最初に比べると、逆にもう一声遊びたくなって、りんごの木に到着してのぼるところを、バスがくねくね曲がったり、ぐるぐる回ったりして到着するようにしました。何気なく作ってるようで、いつも時間をかけて推敲しています。

『いただきバス』の初期の絵コンテ

『いただきバス』(鈴木出版)より

――ストーリー以外にも、遊びの要素がたくさん入った絵本を作り続ける藤本さん。『いただきバス』に出てくるキャラクターも、よく見ると不思議な行動をしている。みんなでりんごを取りに行くというのに、一人だけずっと本を読んでいるねずみが描かれている。

 本を読んでいるねずみの子は、実はぼく自身の反映キャラクターです。子どもの頃は漫画好きで、思春期以降は、活字中毒者でした。もともとプロトタイプなことが嫌いで、自由すぎる幼稚園児だったんです。お勉強が多い幼稚園だったので、一人だけクラスを抜け出して、屋上で遊んでたりして、しょっちゅう行方不明。大人にはずいぶん迷惑をかけたろうと思います。保育園でも、みんなと一緒の活動をしたくない子っていますよね。そういう子は無理強いしないほうがいい。こっちでおもしろいことをやっていれば、自然にやりたくなったときに寄ってきます。

 子どもたちと関わっていく中で生まれるものはたくさんあります。子どもたちと絵を描いているときに気づいたのは、絵の具って、白と赤・青・黄の4色があれば、ちょっとずつ混ぜて何の色でも表現できるんだということです。だから、『いただきバス』は4色しか使ってないんですよ。黒もちょっと緑がかってるでしょ。

音楽や遊びと一緒になった新しい絵本を作っていきたい

――藤本さんは、絵本の他に、親子向けの遊びや歌なども多く手掛けている。子どもが楽しいと思うことをどんどん発展させて、今までにない絵本にも挑戦し続ける。

 いつもぼくの真ん中のテーマとして子どもがあって、子どもが喜んだり、楽しんだりするのに必要なものを作っている、という感覚が大きいです。大学の頃から野外活動のキャンプリーダーとして子どもたちと夏を過ごすことが多くて、就職しても子どもと一緒に何かするような活動は続けていました。そういう中で、絵本や歌で遊ぶ中川ひろたかさんやたにぞう、ケロポンズなどに出会っていったことは、随分影響を受けましたね。

 最近では、「歌」と「絵本」を融合させた絵本も作りました。それまで音の出る絵本といえば、童謡とか動物・車の音などが主流でしたが、バスの「降りるボタン」を押すとケロポンズが歌ってくれる『へんてこバス』(鈴木出版)や、歌に合わせてパラパラ漫画のようにお化けが動き出す『たいそうおばけ』(同)など、絵本を丸ごと遊べるようにアイデアをひねりました。体操のひろみちお兄さんと、さかあがりの本を作ったり、芸人のテツ&トモと、身近な疑問を「なんでだろう」と考える本を作ったり、コラボレーションも積極的にやっています。

 ぼくは、子どもが楽しいことをプロデュースするのが好きなのかもしれません。読み聞かせや遊びもセオリー通りにやるより、「楽しい」ほうを優先してしまうところがあります。ただ子どもに与えるのではなくて、「こんなおもしろいものがあるんだよ、気づいてないだろ? 俺が先に気づいちゃった!」って言いたい。その気持ちがあるから、絵本を描き続けられるんだと思っています。