「STAY HOME」を合言葉に通勤がリモートワークへ、飲み会がオンラインへと移りゆくなか、みなさまいかがお過ごしでしょうか。家での過ごし方が注目されていますが、生活にラジオを取り入れるのはいかがでしょう? ラジオはネットでも配信されるようになり、より身近になってきました。受験勉強中に励まされたあなた、実はハガキ職人だったあなた、そうじゃないあなたも、今改めてラジオの魅力を確かめてみませんか。
今回ご紹介するのは、イレギュラー尽くしのラジオDJの物話『波よ聞いてくれ』(沙村広明、講談社)です。ラジオDJ はラジオのリスナーが作り手側に立ってみたいと目指す人が多いそうですが、こちらの主人公は札幌のスープカレー屋で働く鼓田ミナレ。接客はそつなくこなすが、客にはストレートな物言いをし、店長には「失恋した時の遅刻はノーカウントにしてくれ」と発言するなど、自由奔放な性格の持ち主です。
ある日、酒場でヤケになったミナレは元カレの悪口を言い、それを地元ラジオ局のディレクター・麻藤兼嗣に密録されて、翌日の生放送で使われてしまいます。怒り狂いラジオ局へ乗り込んだミナレですが、まんまと麻藤の策略にはまり、アドリブで弁解トークに挑むことに。元彼に向けて「お前は地の果てまでも追いつめて殺す」と言い放つなど、感情表現豊かで言葉を巧みに操るキャラクターが好評で、自分の番組をやってみないかとスカウトされます。
ラジオDJはトークのほか、ゲストとの掛け合い、テーマにあった曲の選定などを行い、番組をスムーズに進行させるのが仕事です。麻藤はミナレのアドリブ力や弁舌に注目し、ウソの出来事を実況風に放送する「架空実況」や「オーディオドラマ」にチャレンジさせます。リスナーは予想できない展開に放送事故ではないかと、ミナレの放送に興味を持ち始めます。
本来ラジオで求められるのは聞きやすく安心できる声ですが、音域が高く人をあおるようなミナレの声がリスナーの不安をかきたてる役割を果たしています。DJにとって滑舌の良さや声量は必要ですが、それ以上に必要なことは対応力だとディレクターの麻藤は教えてくれます。好きな芸能人の番組でない限り、リスナーがラジオを聴くのはDJの人柄やキャラクターに魅せられているからだとも言います。
持ち前の度胸を盾にアクシデントにひるまず、自身の感性や経験を活かした独特のトークを展開するミナレ。店でBGMを聞き流す程度にしかラジオに馴染みがありませんでしたが、常連客から「ラジオの人でしょ」と声をかけられたり、店のブログにラジオの感想が寄せられたりするうちに、ラジオがリスナーと近い距離にあることを実感します。メッセージの送り手でありながら、情報が役に立った、素敵な音楽に出会えた、トークに元気づけられたなどリスナーからのリアクションを直接受け取ることができるのがDJの醍醐味でもあります。
深夜3時半の放送で、スポンサー、スポットCMのいずれもない冠番組で、ミナレと麻藤はラジオ界に新しい風を吹かせるのか。電波という波に乗せて思いや言葉を世の中に叩きつける、ミナレの活躍が楽しみです。
「波よ聞いてくれ」で知る、ラジオDJあるある!?
- 年配のリスナーからのリクエストは、いまだにFAX受信が中心
- 企画があっという間に形になるが、失敗か成功かがリスナーの反応ですぐにわかる
- 冠番組の場合、勤務サイクルは決まっているので、他の仕事と掛け持ちしている人もいる
- 心霊スポットに取材などエンタメのために身を投げ出すことも
- 「地域密着性」「災害への対応力」の強みを持っている
ラジオを作るひとたち
ラジオ番組はDJ以外にも様々な人が活躍しています。番組の企画や構成を考え、収録の進行を仕切る現場監督・ディレクター、番組のテーマにあった台本を作成する構成作家、DJの声質の調整や演出にあった音素材を出すミキサー、番組へのお便りをまとめ、CM中やリクエストに応じた曲を準備するADらに支えられ、DJは安心して番組をこなせるのです。