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多和田葉子さん「星に仄めかされて」 インタビュー 多言語のはざまで旅は続く

5月初旬、外出自粛で人気の少ないベルリンで=Elena Giannoulis氏撮影

 コロナ禍で「国境」が再びくっきりと浮かび上がっている今、作家の多和田葉子さんの新刊『星に仄(ほの)めかされて』(講談社)の自由さが尊い。『地球にちりばめられて』(2018年)に続く3部作の2作目。日本が消滅した世界で、言語を巡る旅は続く。

 普段は朗読会で世界を飛び回る多和田さんだが、今はベルリンの自宅で日々の大半を読書や執筆に充てる。「いつも以上に生きている感じがあります。旅はできないけれど、旅のシーンを書いていると実感が湧いてくるんです」

 太平洋にかつてあった列島出身のHirukoは、移民先の欧州で自分と同じ母語を話す人を探している。遠い昔に話していた母語は、記憶の中で奔放に変容している。例えば「半被(はっぴ)」という言葉は音からハッピーを連想し、「幸福な上半身」といったふうに。スカンディナビアの諸言語を混ぜ合わせた独自言語まで生み出す。

 〈わたしはある国の上流階級またはエリートの喋(しゃべ)り方を真似(まね)したいと思ったことはこれまで一度もない。国と国の間を移動しながら、必要な単語を拾ったり、要らなくなった単語を捨てたりして、自家製の言語パンスカをつくってきた〉

 多言語の「はざま」を創造の泉にしてきた多和田さんの、これは文学者としての自己紹介とも読める。

 3作目でHirukoは仲間たちと船で太平洋を目指す。そこに故郷はあるのか。

 「見つかるってことは、きっとないでしょうね」。それが多言語が行き交う欧州で抱く実感だ。「日本語と日本が結びついていなくてもいいんです」(板垣麻衣子)=朝日新聞2020年6月10日掲載