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じゃんぽ~る西さん「私はカレン、日本に恋したフランス人」インタビュー 日本人漫画家がフランス人妻の視点で描く日本

文:若林理央 ©じゃんぽ~る西/祥伝社フィールコミックス

フランスとの出会いがコミックエッセイを描くきっかけに

――じゃんぽ~る西さんはどういった経緯でコミックエッセイを描くようになったのですか?

 漫画自体は小学生の頃から大好きだったんですよ。週刊少年ジャンプや少女漫画もよく読んでいました。
 漫画家デビューしたのは29歳のとき。その後ワーキングホリデービザで渡仏して、帰国後、パリでの生活を描いた漫画が私にとって初の単行本になりました。
 その後、パリ三部作(『パリ愛してるぜ~』『かかってこいパリ』『パリが呼んでいる』全て飛鳥新社)を発表しました。ここで「じゃんぽ~る西」というキャラクターが定まった気がします。

 私はコミックエッセイを描く時は登場人物は実在人物をモデルとし基本的に名前は変えています(著名人の名前はそのまま)。フランス人ジャーナリストである妻カリンも「カレンさん」として漫画の中に登場しました。その時は後に彼女と結婚するとは思っていませんでした。
 2012年に結婚してからは、結婚生活や子育てを扱ったコミックエッセイを中心に描いています。

――絶妙なギャグセンスもじゃんぽ~る西さんのコミックエッセイの特徴だと思っています。この間、電車の中で読んでいて声を出して笑いそうになりました。

 ありがとうございます。もしかすると子ども時代に読んだ漫画のナンセンスギャグや、当時のテレビ番組から影響を受けているのかも知れません。

これまでのやり方を一新した『私はカレン、日本に恋したフランス人』

――2019年12月に奥様から見た日本を描いた『私はカレン、日本に恋したフランス人』が発売されましたね。本書はどう構想を練ったのでしょうか?

 国境を越えていく人たちの話を描きたかったんです。日本人だったら当たり前、外国人にとっては独特の日本の空気感。妻も含め周囲にはそれを体験している人たちがいました。
 当初は話ごとに主人公を変える予定だったのですが、「カレンさんの話」だけで予想以上にボリュームがあったので方向転換しました。

――見どころはどういった点だと思いますか?

 一言では言えないのですが、フランスから日本にやってきた主人公カレンの人生に興味を持つ人が多いのではないかと思います。

 フランスでの生い立ち、1996年にバカンスで初めて来日したときのこと、日本に住むことが目標になってからの日々、日本で働くようになった経緯、日本人との結婚、日本での子育て……。外国人から見た「日本の魅力」を前面に押し出しました。

――本書でじゃんぽ~る西さんとカリンさんのなれそめも詳しく知ることができて、興味深かったです。

 当時、私はフランスから日本に帰国してアルバイトをしながら漫画を描いていました。初めて妻に会ったのはフランス人漫画家の歓迎パーティー。妻は日本の漫画の歴史に関する本を執筆してほしいとフランスの出版社から依頼を受けて、漫画界で取材を重ねていました。その後二人で会うようになり、一年半の交際期間を経て結婚しました。

コミックエッセイだけど主人公は自分じゃない

――奥様とはいえ他の人の視点でコミックエッセイを描くのは難しかったと思います。工夫したことはありますか?

 それまでの漫画ではじゃんぽ〜る西が主役だったのですが、この作品ではカレンが主人公になるのでカレンの人称を「私」にし、カレンを語り手にしました。従来のスタイルで西を語り手にすると、カレン目線にならず、西が妻の姿を客観視しているような形になってつまらないだろうなと思ったからです。

 ただ自分が主人公なら作中で自分を好きなように動かせますが、自分ではない人ならそうはいかない。妻は家族なので、他の人よりは許容範囲が広かったとはいえ難しさを感じることは多々ありましたね。

――難しいと感じたのはどのような点ですか?

 例えば私は目で情報を得るタイプなのですが、妻は音にこだわりがあるため、異文化も目ではなく耳から感じ取るんです。
 私はフランスにいたとき、パリをビジュアルでとらえていました。帰国する直前の三カ月はカメラを二台持って、パリを巡りたくさん撮影し、帰国後はそれを見ながらパリ三部作を描きました。

 同じように本書では、「妻から見た日本」の情景を目で見てわかりやすくしたいと思ったのですが、妻からは日本の情景に関する話はあまり出てきませんでした。
 想定外で難しかったですが、結果としては今までのやり方を大きく変えて新しいことができたし、私と妻の相互理解が深まったので良かったなと感じています。

唯一テイストの異なる東日本大震災のエピソード

――カリンさんにとって思い入れがあるエピソードはどれだと思いますか?

 終盤で出てくる東日本大震災の話ですね。
 先ほど妻は耳で情報を得ているといいましたが、震災直後については妻の口から「東京に誰もいなくなってしまった」という言葉が出てきたんです。

 ジャーナリストとしての妻を知ってもらいたいという思いもありました。日本で外国人が報道関係の仕事をしていると、偏見の目で見られることも多いので。

――コメディタッチのエピソードが多い中で、あの話はテイストが異なりましたね。震災直後、外国の記者がたくさん日本へ来たことなど、私の知らなかった事実もたくさんありました。

 単行本にするときに加筆修正しながらエピソードを時系列に並べたのですが、震災の話だけはテイストが異なったのでラストの直前に入れました。

――カリンさんに話を聞く際、意識していたことはありますか?

 質問内容ですね。人はそれぞれ膨大な量の情報を持っているので、何を質問するかによって引き出せる内容が変わってきます。
 妻とは毎日会話しているので、漫画に描けることは全て聞いたと思っていたのですが、質問を変えてみると新しい情報がたくさん得られました。
 例えば最後の章で、妻が日本へ向かう飛行機に乗っている描写があります。あの場面設定は私がしたんですよ。「最初に来日したとき飛行機でどんなことがあった?」と聞いて妻に教えてもらったエピソードです。

――カリンさんからはたくさん興味深い話が聞けそうですね。

 描きたい話題は他にもたくさんありました。しかし1話8ページしかない連載漫画だったので全ては描けません。エピソードはどんどん削りました。震災の話では優先順位を妻と相談して決めていました。
 内容が決まった後も、ペンを入れる前に妻にネームを見せ細かい用語や事実を確認してもらいながら漫画にし、『私はカレン、日本に恋したフランス人』は仕上がっていきました。

異文化を体験することが楽しいのは日本人もフランス人も同じ

――中盤にじゃんぽ~る西さんがパリにいた頃のエピソードもあり、パリ三部作では描かれていなかった内容だったので驚きました。まだまだ漫画になる話があるのですね。

 ありますね。パリ三部作ではギャグになりそうな内容をピックアップしていたんです。今回は妻とは反対の角度、外国人としてフランスに住んでいたことにスポットをあてました。
 当時、「日本で外国人の若者が狭い畳の部屋で楽しそうに暮らしている。その気持ちがパリに来てわかったね」と友だちと話したことがあるんです。未知の国に住む楽しさはどの国の人も変わらないと思っています。

――今後、単行本が出る予定はありますか?

 現在、「ふらんす」(白水社)で連載している漫画「フランス語っぽい日々」の単行本化に向け作業中です。妻カリンのコラム「C’est vrai ?」(日本語で「本当?」)との夫婦連載です。
 また、フィール・ヤングでは子育てをテーマにした「わんぱく日仏ファミリー!」を連載していて、今は「絵本」に焦点を当て、絵本作家の方に取材しながら漫画にしています。描いていてとても楽しいですし、今後これも単行本化する予定です。
 コミックエッセイの中で読者の皆さんにお会いできたら嬉しいです。