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フルポン村上の俳句修行 桃太郎を話す鸚哥、子だくさんの親鸞…25画以上の漢字を使って一句!【前編】

文:加藤千絵

 俳人の坊城俊樹さんを招いて企画した「フルポン村上の選句修行2」で、「球根を植ゑて残れる手の丸み」という句が村上さんの特選句になった彼方ひらくさんから、すてきなお誘いメールが届きました。

サイン色紙が届きました。ありがとうございます。
ところで、現在『うかれ猫句会』というZoom句会を月例で主催しております。毎回すこし変わった兼題を出していまして、村上さんがゲストで参加されたら楽しくなるでしょうねと皆で話しています。(抜粋)

 聞けば、岡山在住のひらくさんは気軽に参加できる句会が身近になく、ずっと文字のみのインターネット句会をしていたとのこと。それがこの新型コロナウィルス騒動をきっかけにZoom句会を試してみたそうで、「リアルの句会とインターネット句会のいいとこ取り、ハイブリッドみたいな感じ。地理や移動距離を考えなくていいのはもちろんなんですけど、録画もできるし投票機能も使えるし、いいことばかりですね」と話します。

「うかれ猫句会」を主宰する彼方ひらくさん

 メンバーは、俳句のイベントやツイッターでつながっていた仲間たち。毎回ちょっと変わった兼題にしているのは、「参加者がうまいんですよ。ふつうの兼題だとつまんないってところがあって」。ひらくさん自身の句歴は4年ほど。「NHK俳句」に投句してみようと思い立ち、割とすぐに入選してテレビで紹介されたのが始めたきっかけだそう。「完全にビギナーズラックで、僕が作ったのとは違う深い読みだったんですけど、浮かれましたね。調子に乗って、次の月もその次の月も出したけど佳作にすら取られなくて、これはダメだと思って、俳句のラジオ番組に毎日投句し始めたらもう引き返せなくなったというか、後は俳句沼です(笑)」

 現在は「うかれ猫句会」のほか、初心者のための「まなざし句会」を主宰するまでに。句会のおもしろさを聞くと、「平等っていうところですね。指導者も初心者も上級者もみんなが一つの座に集まって、名前を隠して俳句を出すってすごく平等じゃないですか。指導者の人の句が全然とられなくても、それで気まずくなったりもしないし。1句1句の勝負なので、今回ダメでも次いいかもしれないし、そこがすごく好きです」。

 次回の「うかれ猫句会」は25画以上の漢字を詠み込む「漢字の座」と、季語ではないけれどふさわしいと思う言葉を入れる「季語提案の座」、当季雑詠の3座が開かれるとのことで、村上さんも参加させてもらうことにしました。

 6月20日午後8時、パソコンの画面に村上さんが登場すると「本当に村上さんだー!」と歓迎ムードに包まれます。この日はそれぞれが飲み物を手元に用意して、乾杯からスタート。参加の14人(1人は欠席投句)が順に自己紹介をした後、句会を始めます。うかれ猫句会では、今500を超えるインターネット句会で重宝されている「夏雲システム」を使って事前に投句と選句をします。句会の場で主宰のひらくさんが「結果発表」ボタンを押して、それぞれの句に何点入ったか(天3点、地2点の計算)を公開し、句評と名告(の)りをしていきます。ちなみに「うかれ猫句会」のメンバーには、夏雲システムの開発者・野良古(のらふる)さんもいました。

「漢字の座」からスタート

 まずは、25画以上の漢字を使うことが条件の「漢字の座」からスタート。最高点の12点を獲得したのは、ひらくさんの「大籬(おおまがき)くぐる螢を迎ふなり」でした。「大籬」とは、江戸の吉原で最も格式が高いとされた遊女屋のことです。

笑松(わらいまつ):江戸時代なので見たことも行ったこともないですけど、浮世絵とか小説とかの世界にすーっと入っていく情緒が感じられていいなと思いました。

クラウド坂の上:結局遊女って、死なないと遊郭から出られない。そのはかなさと蛍のはかなさが近いかなと思ったんですけど、でも蛍はそこから出て行くことができるわけですよね。だから蛍に対して親近感を持ちながらも、「お前はいいね」って言ってる遊女の姿が鮮やかに浮かんで選びました。

七瀬ゆきこ:昨日、蛍狩りに行って状況が見えてきたんですけど、そんなに忙しい遊郭じゃないんだな。もしかしたら時代の終わりの頃で、蛍がやってくることを迎え入れられるくらいの余裕があるような、ゆったりした時間を感じました。

彼方ひらく:村上さんのご意見をうかがってもよろしいですか?

村上:僕は(点を)入れてないんですけど、入れたかと思ったんですよ。

一同:(笑)

村上:迎え入れる人が遊女だ、っていう映像がすごくいいなと思って。大籬自体がくぐってくる蛍を迎え入れているようでもある、っていう読みもいいなと思いました。

桃太郎を覚えてしまったインコ!?

 次の9点句はなんと、村上さんの「ももたろう話す鸚哥(いんこ)や冷やし瓜」でした。

彼方ひらく:私が天でいただいてるんですけど、これは全体の句を通して一番おもしろかったです。人間じゃなくてインコが桃太郎を物語ってるわけですよね。桃じゃなくて、代わりに瓜が桶とかに浮かんでて、ダウングレードしてる感じ、非常に愉快ですね。インコに桃太郎を覚えさせようって発想もおもしろいんですけど、たぶんそんなに長く覚えられないんで、「どんぶらこ、どんぶらこ」くらいしか言えないんじゃないのかなと思うんですけど、そこを想像するとどんどん楽しくなってくる。すごく好きな句です。

野良古:よっぽど親が子どもに桃太郎ばっかり話してるんだろうな、って思って。描かれているシーンの前の時間が想像できるのがおもしろいのと、「冷やし瓜」っていう季語、「桃太郎を話す鸚哥」っていう句の雰囲気の作り方が好きだな、と思っていただきました。

洒落神戸:「冷やし瓜」って、冷蔵庫ではなくて水で冷やしたり川で冷やしたりする雰囲気があって。僕はこの季語からはマンションではなくて、ちょっと田舎で、大きな家で、おじいちゃんもおばあちゃんも一緒に住んでるような家で、みんなが子どもに桃太郎の話を聞かせていると(想像した)。そこで飼われてるインコがその言葉を少しずつ覚えていくのが、現代か少し前なのか、いい感じの日本の風景が描かれてるな、と思っていただきました。

彼方ひらく:冷やし瓜っていう季語のいろんな要素が生きてる句ですね。村上さん、ご意見うかがってもよろしいでしょうか?

村上:すいません、これ僕の句なんですけど・・・・・・。

一同:「すごーい」「おめでとうございます!」

村上:今おっしゃっていただいたみたいに、僕、おじいちゃんおばあちゃんちの近くに、桃太郎を話すインコがいるらしい、っていうのがあったんですよ。あとテレビとかでたまに出てくる、桃太郎を話してる変わり種のインコみたいなのを思い出した時に、そのインコを最初はみんなおもしろがって相手にしてくれるんだろうけど、それを飼ってる家からすると、なんとか桃太郎をしゃべらそうみたいな雰囲気に冷やし瓜があるっていう、なんでもないのどかさがすごくいいな、と思って作りました。

オウムと沖縄の叫び

 香野さとみZさんの「絶叫の鸚鵡(おうむ)の冠羽沖縄忌」も同じく、9点を獲得しました。

土井探花(欠席につき、ひらくさんが代読):第二次大戦の凄惨な沖縄での戦いと殺戮を想起した。オウムはかごの中でその一部始終を見て絶叫し、冠羽が逆立ったのだろう。臨場感のある句。

あるきしちはる:オウムってすごく声が大きくてギャーギャー鳴いて、しかも耳に刺さるので、そのオウムの姿が沖縄の叫びと重なってくるように感じて。「冠羽」に着地するのは何でだろう、と思ったんですけど、探花さんの評を聞いて、すごい揺れて鳴いてるんだなっていうのが浮かんだので、なるほどって納得しました。

大槻税悦:冠羽っていうのを調べたら、敵に対して体を大きく見せかける防御手段に使われるって書いてあって、それで全部意味がつながるなって理解して。沖縄に対するリスペクトっていうか、そういう気持ちの句なのかな、と思っていただきました。

彼方ひらく:村上さんもよろしければ一言いただいてもいいですか?

村上:僕、忌日で(句を)作ったことないんですね、一度も。すごくむずかしいじゃないですか。でも、しゃべる鳥で絶叫ってもってくるあたりがおもしろいなと。絶叫も冠羽も沖縄も全部パワーなんだけど、イヤだってならない感じがすごいなと思いました。

宗教隆盛の秘密は・・・

 続く8点句は「驢馬(ろば)隠すほどに干草積みに積む(北野きのこ)」「洗ふ手を橄欖石(かんらんせき)の数珠涼し(大槻税悦)」「親鸞に妻あり子あり夏の草(桃猫)」の3句。特に評が盛り上がったのは「親鸞」の句でした。

クラウド坂の上:季語の距離がすごく合ってるなと。「夏の草」ってぼうぼうと茂ってくる、夏のエネルギーを感じさせる季語ですけど、親鸞は7人子どもがいたのかな? そう読むと非常に絶倫のようなイメージ(笑)。私、(学校の先生で)社会が専門で宗教も結構好きなんですけど、本当は8代後の蓮如上人っていう人は13男14女、27人子どもがいたっていう。やっぱ最初の祖の親鸞がそれだけ子どもを作らなければ今の浄土真宗の隆盛はなかったわけなので、そういうことも考え合わせるとすごくおもしろい句だなと思って。

クラウド坂の上さん

 「“親鸞”って思いついた瞬間にパパパッと作ってしまったんです」と作者の桃猫さん。「25画以上の漢字」を探すのには全員苦労したようですが、中でも画数が多く、難読漢字だったのが野良古さんの「瀲灎たり恩師の見つめゐる泉」(6点)。村上さんは天句に選びました。

村上:これ、「れんえん」ですよね。まず、どうやって調べていいかも分からない。それがむちゃくちゃ大変だったので、その苦労もあった、っていうのもあります(笑)。ただ、こんなに難しい漢字なのに静かな意味で、泉がきれい、っていうくらいのことなんです。だから結構シンプルな景なんですけど、すごい画数の漢字があるっていうことと、恩師がその泉を見つめているだけなんだけど意味ありそう、って思って。その泉を見てみたい!って思えたんです。

野良古:これは実景に近いんですけど、恩師と散歩に行って泉を見つめているときに、自分よりも知識も深いし頭の働きもすごくいいしっていう人といると、この人には何が見えてるんだろう?っていう気分になります。自分が見つめてるよりも深い、もっとおもしろい景が見えてるかもしれないな、って思ったときに、瀲灎っていうわざわざ難しい言葉を使う意味もあるかなと思って書きました。

>【後編】「オフショル」「粉ポカリ」を新しい夏の季語に! 「季語提案の座」はこちら