“性”に翻弄される少年たちの物語(井上將利)
「オメガバース」の世界はBLレーベルや作品毎に様々な設定があり、独自の世界観として多様な変化を続けているカテゴリーです。
今回はそんなファンタジーの世界観でありながらも、リアルな思春期の心理描写を描いたakabekoさんの「少年の境界」(リブレ)をご紹介。
本作では男女とは別にα(アルファ)・β(ベータ)・Ω(オメガ)という3つの性別が存在しています。最も少数派であるΩは男女問わず妊娠可能な身体構造を持ち、定期的な発情(ヒート)により無自覚にαとβを誘惑してしまうことから社会的弱者となる傾向の強い性。一方のαはΩに次いで少数派であり、Ωに対して急性的に発情(ラット)することがあるが優秀な遺伝子を持つとされており、社会的地位の高い人物が多い性です。またαとΩは発情時の性交において「番(つがい)」という特別な関係になることができ、そうなると互いにしか発情しなくなります。さらに、出会っただけで本能的に強烈に惹かれ合う「運命の番」という概念も存在します。
——という設定の本作において。
ゆかと薫は幼少期からの幼馴染。小さい頃はいつも一緒に過ごし、何でもよく出来るゆか、大人しく真面目な薫という関係でしたが、進学するにつれて、ゆかは地味な薫を避け活発(ちょっと不良)なグループに属するように。
そんなある日、学校でα、β、Ωの性別検査が実施されることに。少数派であるΩ=繁殖に適した性別と説明を受け、Ωを安直に見下げ嫌悪するゆか達でしたが、ゆかの検査結果は……なんとΩ。さっきまで嫌悪していた存在が自分であった事実は、幼い少年には到底受け入れられることではなく、ゆかの心の中には動揺が広がっていきます。ゆかは一緒にいる仲間たちにもΩであることを隠しながら過ごしますが、リーダー格の大我がαであると知ったとたん本能的に身の危険を感じ距離を取るように。と同時に、周囲とは異なる自分の身体を嫌でも自覚させられ、孤独を感じるのでした……。
そんな傷心中のゆかはある日、保健室で薫と鉢合わせます。駆け込んできた薫は朦朧としていて発情期のような状態。その場でゆかは薫もΩであり唯一の仲間であると確信するのでした。絶望の中に一つの希望を見つけたゆかが薫にすがろうと「…なぁ、お願いだよ…心細いんだ…俺…」と言う場面では、ゆかの悲痛な叫びが伝わってきます。
しかし時を同じくして、ゆかがΩであることが大我たちに知られてしまい、本能のままにゆかを襲おうとします。かつての仲間たちに追われる身、学校という小さな社会でも弱者であることを強いられたゆか。そんなゆかを助けようと割って入ってきたのは、なんと薫でした。
同じ立場である薫が何故……? ここから物語は怒涛の展開に——!
性別の違いがそれまでの人生や人間関係の全てを変えてしまう、そんな暴力にも似た理不尽な現実を思春期真っただ中の彼らに突きつけることで巻き起こる心情の変化や表情の全てが本作の見どころです!
そしてΩとα、二つの性に翻弄される少年たちの物語は「運命の番」という新たなキーワードと共に2巻へと続いていきます。
ここまで来たらもう読まずにはいられませんね! 新しい扉、開けてみませんか?
エロティシズムと動物的かわいさが炸裂!(キヅイタラ・フダンシー)
最初に「オメガバース」という言葉を聞いたのは何年か前でしょうか。世界観を理解するのにちょっと時間が掛かりましたが、作品が増えてきて慣れてくると、BLの1つのテーマとして自然に入ってくるようになりました(笑)。基本的にオメガバースの世界では、男性・女性という性別に加えて、α(アルファ)・β(ベータ)・Ω(オメガ)という3つの性が存在します。そしてΩの男性は子供を宿すことができるのです。これだけ聞くと、くっつくパターンも増えて自由恋愛!という感じになりそうですが、オメガバースの面白いところは独特なルールがあること、作品によって個性的な設定が追加されていることだと思います。今回ピックアップする作品と合わせて、その魅力を紹介したいと思います!
今回紹介させていただく作品は、腰乃さん「滅法矢鱈と弱気にキス」(東京漫画社)。
もともとβ(いわゆるごく普通の人)だったのですが、二次検査を受けたときにα(生まれながらにして容姿や資質に恵まれた性)だったことが発覚した高校生の恋治。αとΩの人口が減っている中、貴重な存在としてお見合いパーティに参加することになりました。そこで“運命の番(つがい)”として出会ってしまったのが、行き遅れΩの研修医・静香でした。まだαであることに自覚の薄い恋治は、巡り会うこと自体難しい運命の番が、なぜかわいい女子じゃなくて男なのか納得できません。ファーストインプレッションが最悪な2人。キレる恋治でしたが、抑制剤を飲んでいなかったため静香のフェロモンに発情してしまい、2人はそのままトイレで……、という勢いがすごい展開から始まりますが、その後も猛アピールをする静香に「お友達から」とOKを出してしまいました。恋に夢見る青年αと不器用Ωの恋の行方はどうなるのでしょうか——!?
腰乃さんの描くキャラクターはいつも魅力的なのですが、僕はΩの静香がめっちゃ好きです。すぐ舌打ちするし目つきも愛想も悪いけど、キスのときだけ弱気なのがかわいいし(“ふそり”っていう擬音が秀逸で好き・笑)、恋治の気遣いのない言葉や態度にもめげずにぐいぐいアタックするところも、怪我をした恋治にこっそり優しいところも素敵です。あとフェロモンを嗅がれているときの表情とかたまりません(笑)! でも彼もΩであることで辛いこともあったんだと思うと、やっと出会えた運命の番との恋路を応援せずにはいられません!
また、今作では、Ωがαに力を与えることができて、“オーラ玉”という不思議な玉でαを守ることができる、というのも独特で面白い設定です。静香の気持ちの強さの表れでもあるように思えて、この玉の存在がますます静香ファンにさせてくれました。
オメガバースには発情とか、うなじを噛んで番になるとか、巣作りとか、人間の中に動物の本能的な要素があるところも、なんだかエロティシズムと動物的かわいさがあっていいんですよね~(笑)。
なんだか専門用語みたいなものも多くて伝わりづらいかもしれませんが、読めば面白さがわかるはず(笑)! オメガバース作品はいろいろあれど、腰乃さんのアレンジが加わることで、ドタバタ&キュンなコメディ作品に仕上がっていて、はじめてでもとても楽しめますよ♪
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