イベントの良し悪しはやっぱりコンテンツ力
――「東京蚤の市」や「紙博」など、手紙社が主催するイベントは毎回大盛況ですよね。どんどん大きくなっている印象を受けます。他が主催するイベントとの違いはどこにあるとお考えですか?
イベントにもいろいろ種類がありますよね。僕らのイベントは出店者がいないと成立しない。あまり違いを意識したことはないですけど、作り手である出店者が主役というところがやっぱり一番の違いなんじゃないでしょうか。作り手の方々が輝けるステージをつくることが自分たちの仕事だと思っています。そのいろんな出口の一つがイベントであるだけであって、自分たちをイベント会社だとは思っていないんです。
――手紙社のイベントの中でもうまくいくケースとそうでないケースがあると思います。毎回収支を細かく予測してイベントを開催されているそうですが、大きな赤字となって1回だけの開催で終わるものもあれば、「紙博」第1回のように1出店者あたりの入場者数も平均売上も予測を上回る結果でその後も続いていくイベントもありますよね。その差は何なんでしょう?
当然、みなさんに喜んでもらうことやビジネスとして成り立つことを考えてイベントをつくっていくわけですけど、雑誌と同じで売れるものと売れないものというのが出てくるんですよね。時代性もあるだろうし、テーマもあるだろうし。でも、最終的にはコンテンツということだと思います。ダメだったイベントはコンテンツ力がいろいろな意味で足りなかったんでしょうね。
――本の中で、「手紙社のイベントのコンテンツは出店者」と書かれていますね。実際、手紙社では社員全員で出店者候補である新たな作り手探しを毎週やられているそうですが、他の人と被ってはいけないことも考えるとかなり大変な作業です。
でも、そこが一番大切なところになるんですよね。どれだけ質の高い作り手とコミュニケーションがとれるかというのがポイントであり生命線。新しい作り手を探し続けることをやめたら手紙社でなくなってしまうと思っています。年間を通してやっていると、みんなの目利き力みたいなものが上がってくるし、手紙社という人格がどういう作家さんを探しているのかという目線も合ってきます。
「手紙社はマスになってはダメ」だと常々言っていて、多くても3万人くらいのマーケットでやっているのがいいと思っているんですよね。ビジネス的にもマスで勝負できるとも思っていないし、自分たちも面白くないから。好きなものが同じ人たちが集まって時間や場所を共有するというのがやっぱり楽しいんですよ。規模が大きくなりすぎるといろんな人が出てくるし、制御がきかなくなってしまう。手紙社の世界観が好きな人たち、似たような感覚の人たちの中だけでビジネスとして成り立てば楽しくできていいですよね。
オンラインイベントは全員が特等席
――コロナ禍で予定されていたイベントが中止となる中、この4月からはオンラインでさまざまな講座やワークショップに参加できる「GOOD MEETING」というサービスをスタートさせましたが、このスピード感、すごいです。
実は、「GOOD MEETING」は以前からやろうとは考えていたことなんです。でも、イベントの忙しさなどを理由に全く進められないままでした。今考えると、本当はもっと余裕もあったはずだし、何でもできたはずなんですけどね。だから、「GOOD MEETING」はこういう状況になったからやらざるを得ないというか、できた部分もあります。必死になって3週間くらいで準備しましたよ(笑)。
――3月に仙台で予定されていた「紙博」も急遽オンライン販売に切り替えていましたね。
手紙社のイベントは自分たちがやりたいと思っても作家さんが出てくれなかったら成立しません。こういう状況の中、作家さんも声を大にしてお客さんに来てくださいとも言いづらいですよね。オンラインでも、作り手に手紙社らしいステージを用意してお客さんに喜んでもらうという本質は変わらないので、そちらに舵をググッと切った感じです。
――実際にやってみて、リアルイベントとの違いやオンラインイベントの良さはどんな点にあると感じましたか?
リアルなイベントを完全にオンラインでできるとは思っていません。たとえば、匂いや風が当たる感じ、人の気配など、リアルにはやっぱりリアルの良さがありますよね。でも逆にオンラインだからできることっていうのはあります。「GOOD MEETING」をやっていく中で、スタッフから「オンラインは全員が特等席」という名言が出たんですよ。
翻訳家の柴田元幸さんによる朗読会を開いたんですが、100人くらいの参加者がいる中で、目の前で柴田さんが書斎で朗読してくれるのはまさに全員特等席。しかも、みんなビールを飲みながら、ソファに寝転がりながらと、自由にくつろいでいて、特等席で自由にできる良さというのを目の当たりにしました。
海外からの参加者もいて、物理的距離の制約がないことも大きかったです。そういう共有感みたいなものを広く持てるのはオンラインならではだし、可能性を感じます。まるっとアーカイブできるのもオンラインイベントの特徴の一つですよね。
それと、オンラインだと参加者同士が交流しやすいように感じます。はじめましての人同士でもチャットなどオンラインでのコミュニケーションが活発なんですよ。「GOOD MEETING」には毎月部費を支払ってもらうことで部員だけの特典が受けられる部員制度というものがあって、部員限定で毎朝「北島ラジオ」という番組を生配信しているんですが、毎回設けるテーマに沿って部員の方からチャットでいろんなコメントが届くんです。それを拾うだけであっという間に番組は終わるという感じ。まさにみんなで番組を作るという感じなんですよね。
これからのCGMはコンフィデンスのC
――オープンなSNSというよりも、クローズドなコミュニティの中で同じ趣味嗜好の方が集まっているというところに、何だか安心感があるような気がします。
そうですね。サードプレイスみたいな、そういう心地よい場所がオンラインにもあったらいいと思うし、みんな求めていると思うんですよね。
いま、「手紙社部員の“最強”旅マップ」というものをGoogleマップを使って作っていて、おすすめのスポットを部員の人たちが自由に投稿するんですけど、2週間くらいで既に354カ所も登録されています。面白いのが、登録されたお店などに「私も行ったことあります」みたいなコメントがたくさんついているんです。好きなものが似ているからこそ、コミュニケーションも活性化している気がしますね。
口コミサイトなどユーザーが作っていくメディアを指して「CGM(Consumer Generated Media)」って言いますけど、これは同じCGMでも“Consumer(消費者)”というよりは“Confidence(信頼)”。信頼できる仲間がつくるメディアこそが、文字通り信頼される時代が来ているのではないかと思っています。