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「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」書評 若者の意識と経済 欧米と相違

評者: 呉座勇一 / 朝⽇新聞掲載:2020年08月01日
日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? 結婚・出産が回避される本当の原因 (光文社新書) 著者:山田 昌弘 出版社:光文社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784334044688
発売⽇: 2020/05/20
サイズ: 18cm/195p

世界で「反面教師化」する日本の少子化対策。家族社会学者である著者が、日本の少子化対策が失敗した原因を分析・総括するとともに、日本特有の状況に沿った対策は可能なのかをさぐる…

日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? 結婚・出産が回避される本当の原因 [著]山田昌弘

 「今の若い男性は草食系だから結婚できない」といった言説はいまだに散見される。一方、著者は20年以上前から「収入の低い男性は結婚相手として選ばれにくい」と指摘してきたが、当時は「差別的」であるとして黙殺されたという。日本の少子化対策はこうした先入観やキレイ事のせいで迷走してきた。
 著者は統計分析やアンケート、インタビュー調査の成果というエビデンスに基づいて日本の少子化問題の実態をあぶり出す。本書によれば、日本の少子化対策が空回りした要因は、①子育て支援にばかり目が向き、結婚支援が必要という認識が希薄だったこと②経済的理由から結婚・子育てを断念する傾向を把握できなかったことの2点だという。
 右の錯誤の根底には、欧米の少子化対策をそのまま日本に適用しようとする欧米中心主義的な発想があった。欧米では未婚のまま子どもを持つことは珍しくないし、一人暮らしより経済的であるという理由で同棲・結婚する。
 しかし成人すると自立を迫られる欧米と異なり、日本では成人後も親と同居することが容認されているので、結婚の経済的メリットは乏しい。女性の場合、親や夫に経済的に依存することが今なお当然視されており、仕事よりも趣味や子育てで自己実現を図る志向が依然残っているので(背景には女性差別的な労働環境がある)、収入の低い男性とわざわざ結婚しようとは考えない。
 特に著者が重視するのは、日本人の中流意識である。経済格差が拡大した今も、大多数の若者は自らを中流と位置づけ、結婚・子育てによって「世間並みの生活」(自分が親から享受した生活水準)から転落することを恐れている。少子化を抑止するには、若者の経済状況を改善するか、世間体重視の意識を変える必要がある。いずれも難題だが、小手先の「改革」が無意味なのは確かだろう。
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 やまだ・まさひろ 1957年生まれ。中央大教授(家族社会学)。『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』など。