「ワンダーJAPON」と聞いて、おやっ?と思う人は、それなりにこの界隈(かいわい)の事情に詳しい人かもしれない。この界隈とは、いわゆる珍スポット、B級スポット趣味界隈である。
かつて「ワンダーJAPAN」という雑誌があった。廃虚や工場、巨大構造物に、珍寺や秘宝館など、全国の非日常的な風景を次々に紹介し、珍スポットブームを陰で牽引(けんいん)したマニアックな雑誌だったが、2012年に休刊。ブームのほうもそれと並行するように、趣味の世界に一定の地歩を築いた形で沈静化していった。
その「ワンダーJAPAN」が名前を一文字だけ変えて復活した。
なぜこの時期に? そしてなぜ一文字だけ?
と謎は謎を呼ぶが、つまりは編集長がこれをライフワークとしてやり続けたかったということのようだ。この雑誌のために版元を退社し、別の出版社に企画を持ち込んで復活させた。名前は一文字変わったが、中身の路線はまったく変わっていない。
新創刊第一号の特集は「東京《異空間》旅行」。取り上げるのは、新イグアナクレーン、羽田可動橋、廃墟(はいきょ)になったロープウェイ、水根貨物線跡、船堀タワー、池袋大仏、スガヌマ立体車庫……と、超マニアックなスポットが続く。特集以外にも琵琶湖疏水や、全国各地の展望台、三弦トラス橋、奇妙なラブホテルなどが紹介されており、内容は盛りだくさんだ。
コロナ禍で遠出しにくい今、身近な風景を見直す動きが活発化しているが、そうしたトレンドに乗っかっての創刊ではなく、編集長がただただ作らずにおれなかったという創刊理由は胸熱だ。50代後半を迎え、体力があるうちにやりたいことに専念したかったと、ネットのインタビューで答えていた。(bizSPA!フレッシュ「伝説のサブカル誌が復活。50代編集長が『会社を辞めてまで』実らせた執念」https://bizspa.jp/post-327930/)。
とてもわかる。私も同世代であり、もうあまり時間は残されていないことを日々痛感しているからだ。
最近、版元を変えて復刊するこのような雑誌をよく見るようになった。本欄でも何冊か紹介してきたが、どの雑誌も一度は休刊になったぐらいだから、採算をとるのは大変だろう。「ワンダーJAPON」も編集長がレイアウトと本文のほとんどをほぼひとりで手がけているらしい。
そういう意味でも応援したいと思ったら、発売即重版がかかり、第2号の発売も決まったとのこと。拍手!=朝日新聞2020年8月5日掲載