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BTS、TWICE…K-POPアーティストの愛読書が売れる理由 ファン心理を突く「書籍の韓流ブーム」

文:桑畑優香 写真:吉野太一郎

さきがけは「私は私のままで生きることにした」

 「ナヨン(TWICE)の愛読書は『言葉の温度』(イ・ギジュ著、米津篤八訳、光文社)。私たちが紡ぎ出す言葉の持つ大切さや切実さが語られている韓国で大ヒットの一冊。K-POPコーナーにございます」

 こんなコメントを添えて福岡市のHMV&BOOKS HAKATAがツイートしたのは、「K-POPアーティストたちの愛読書コーナー」の写真。映画にもなった小説『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著、斎藤真理子訳、筑摩書房)、『死にたいけどトッポッキは食べたい』など、話題の本がそれぞれ「アイリーン(Red Velvet)」「RM(BTS)」と書かれた手書きのポップとともに並んでいる。

 「HMV本社から『K-POPスターの愛読書』フェアが提案され、7月から陳列しています。音楽売り場のK-POP棚の下に文学という異色の配置ですが、10代から20代後半の女性という客層にばっちり合い、好評です」と、副店長の大里和美さん。

 「なかでもずば抜けて売れている」というのは、やはり『私は私のままで生きることにした』だ。「K-POPスターの愛読書としては、これがさきがけです」

 『私は私のままで生きることにした』は、BTSのJUNG KOOKの愛読書。表紙はグループのシンボルカラーといわれるパープルだ。だが、編集を担当したワニブックスの安田遥さんは、「BTSを特に意識したものではなかった」と明かす。

 「原書にいろいろな色のバージョンがあるなかで、紫は似たものがあまりないから、日本の書店で映えるのではないかと思い、決めました」

 「空気が読めないと『変な人』と見られがちな日本でも、もっと自由に生きるべきでは」と書名に共感し、2018年秋に版権を取得。「V LIVEの番組で自室にいたJUNG KOOKの足元に本が映り、K-POPファンのあいだで話題になっている」と知ったのは、その直後のことだった。

 タイミングを逃さないように最速で編集し、2019年2月に出版。Amazonの本の売れ筋ランキングで総合2位、2019年の年間ベストセラー(日本出版販売株式会社調べ「単行本ノンフィクション他」7位、トーハン調べ「単行本 ノンフィクション・教養書他」10位)となった。

 「JUNG KOOK本人が口に出して『おすすめ』と言っているわけではないので、帯にはあえて愛読書と書いていません。読者は最初は若いファンが多かったのですが、幅広い年代に広がり、年配の方のなかには『これまでの自分の生き方は間違っていなかった』と答え合わせのように読む方も多いようです」

BTSファン心理を意識した編集

 一方、アーティストとの関係をストレートにアピールしたのが『世界の古典と賢者の知恵に学ぶ言葉の力』(シン・ドヒョン/ユン・ナル著、米津篤八訳、かんき出版)だ。表紙の3分の1以上を占める帯には、「BTS(防弾少年団)Vの愛読書」と、インパクトのある大きな文字が目を引く。

 編集を担当したのは、K-POPファンの渡部絵理さん。原書は、ファンが空港で撮った写真でVが持っていた本として、版権取得前から注目を浴びていた。「BTSとファンをつなぐ特別な色ということで、帯はパープルにしました」と、ファン心理を意識した編集のコツを明かす。

 人文学者と国語教師の2人の著者が、ミシェル・フーコーや釈迦など東洋・西洋の古典や賢者の言葉をもとに、話し上手とはどういうことかを解説した本。先行して売れていたK-POPアーティストの愛読書の多くがイラストエッセイであるのに対し、本書は文字のみだ。

 「正攻法の自己啓発書なので、どこまでいけるかな」とやや気がかりだったという渡部さん。だが発売約10日前、朝起きてスマートフォンをチェックすると、Amazonの本の売れ筋ランキングで突然総合3位になっていた。

 「前日にプレスリリースを出したところ、夜中に海外のBTSファンが見つけてくれてSNSで一気に拡散され、それが日本のファンに広まったのです」

 ヒットの引き金となったのは、フォロワーを多く抱えるファンのSNS。それは、『私は私のままで生きることにした』も同様だった。

ドラマでは「本のタイアップ」も

 配信された動画に映り込んだ『私は私のままで生きることにした』と、ファンが撮った写真に映っていた『世界の古典と賢者の知恵に学ぶ言葉の力』。

 韓国では、アーティストが空港など、一見プライベートに見える場所で身に着けている服は、実はファンが撮影して拡散することを念頭に置いた企業の広告(協賛)という商習慣がある。では、本も実は広告なのか。

 「部屋や空港で偶然映っていた本は、出版社が仕掛けたものではなく、本当にアーティストが好きで読んでいる本です」。韓国の著作物を日本語に翻訳出版する傍ら、版権の仲介もしている株式会社クオン(東京)のキム・スンボク代表は証言する。

 「ただ、ドラマに登場する本は、PPLであるケースが多いです」

 PPLとは、ドラマに商品を映して宣伝をする間接広告のこと。ドラマの制作会社が自ら予算を調達して作品を制作し、テレビ局に売り込む韓国では、タイアップした洋服や食べ物を劇中に登場させて広告費を得るのが慣例となっている。

 キム代表によると、「ドラマがショッピングサイトのようになるなかで、服や食べ物だけでは飽きるので使われるようになったのが本」。費用は、画面にただ映るときは数千万ウォン、主人公の愛読書のような重要な小道具として使われる場合は、1億ウォン程度が相場という。

 「ドラマ『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』で、コン・ユ扮する主人公の愛読書として登場した『もしかしたら星たちが君の悲しみを持って行くかもしれない(未邦訳)』は、広告費2億2000万ウォンと言われています」

 ただ、「K-POPアーティストの愛読書」は仕掛けられた広告でないとはいえ、韓国国内でも耳目を集めるきっかけを生む。

 例えば、韓国で130万部の大ヒットとなった『82年生まれ、キム・ジヨン』は、Red Velvetのアイリーンが読んだと発言したところ、一部の男性ファンが「アイリーンがフェミニスト宣言をした」と反発して炎上。アイリーンの写真やグッズが破損される事態が、ニュースで広く報じられた。

 また、『私は私のままで生きることにした』(韓国で100万部)の版元であるマウメスプは、会社のSNSでJUNG KOOKの写真とともに「BTSも私は私のままで生きることにした」と発信し、多くのいいね!を得た。

BTS도 나는 나로 살기로 했다💕 많은 독자분들이 제보해주신 방탄소년단 정국이 읽은 베스트셀러 <나는 나로 살기로 했다>입니다😊 ⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀⠀ 연예인의 삶도 그 누구의...

마음의숲さんの投稿 2019年5月9日木曜日

知的イメージを印象づける小道具

 愛読書のアピールはアーティストにとってもプラスに働く。高麗(918~1392)、朝鮮(1392~1897)の王朝時代から、科挙に合格した両班が支配階層だった韓国では、「文人を敬う」という思想が今も根強い。ドラマの重要なシーンで本が登場したり、K-POPアーティストがSNSなどで自分の本棚を映したりするのも、知的なイメージを印象づける小道具とも言えるだろう。

 しかし、そんな現状をキム代表は「アーティストやドラマの主人公の愛読書が注目されて売れるというのは、皮肉なことに本が身近にあった伝統と矛盾している」と指摘する。「本があまり読まれなくなったから、アーティストが読書するのを見て、大衆が心を動かされるのでしょう」

 ネットやスマートフォンの時代。本を読む機会が減っているのは、日本も同様だ。冒頭のHMV&BOOKS HAKATAの「K-POPアーティストたちの愛読書」コーナーには、韓国の翻訳書以外にも、『グレート・ギャツビー』(スコット・フィッツジェラルド著、村上春樹訳、集英社、BLACKPINKジスの愛読書)や『デミアン』(ヘルマン・ヘッセ著、高橋健二訳、新潮社、BTS RMの愛読書)など欧米の名著も並ぶ。

 副店長の大里さんは言う。「K-POPファンの皆様が手書きコメントを見て本を手に取り、普段は読まないようなジャンルの本と出合うきっかけになれば。そう願いながら本を並べています」

 「K-POPアーティストたちの愛読書」は、当初は一時的な「フェア」の予定だったが、常設のコーナーに変更。アーティストのSNSや動画を参考に新たな愛読書を見つけ、ラインナップに加えていく予定だという。