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加納土さん「沈没家族 子育て、無限大。」インタビュー 外の風吹く幸せなカオス

加納土さん

 生後8カ月から、50人超の若者に交代で世話してもらって育った。

 「保育人」は、シングルマザーの母・穂子(ほこ)がチラシを配って募った。無職の人、心の調子を崩した人、漫画ばかり描く人……。鍵が開けっぱなしの家には、それ以外にも知らない大人が酒瓶片手に訪ねて来て、共に食べ、遊んだ。「幸せでカオスそのものな」共同生活は、8歳で八丈島に引っ越すまで続いた。

 大学の卒業制作で保育人らを再訪し、記録映画「沈没家族」にまとめた。沈没家族は当時からの自称で、「家族の絆が弱まっている。このままだと日本は沈没する」という政治家の発言に憤慨した保育人が名付けた。映画祭で賞をとり、劇場ではロングランに。一方で映画を見たある保育人から「実際はもっと壮絶な日々だったよ」と言われたことが引っかかり、再取材して本を書いた。

 保育人たちがつけた膨大な記録を改めて見返すと、一人一人の生きづらさや貧困が吐露され、「早く帰ってきてください。こまります」と母への怒りもぶつけられていて驚いた。

 母の葛藤も浮かんだ。母の母・実紀代は女性史研究のパイオニア。血縁に頼らぬ共同保育という発想は環境ゆえだ。一方で母は、校則や試験のない自由を掲げる私立高校を受験させられ反発した経験を「彼ら(両親)の中にも理想みたいなのがあった。それが子どもとずれてることに気付いていなかった」と振り返った。息子には同じことをすまいともがき、多様な人に頼ったのだと知った。

 いま振り返っても、家の中に親以外のたくさんの価値観があり、甘えられる生活は代えがたかった。コロナ下でも「子どものために、家族にはなるべく外の風を入れてほしい」と願う。26年前の母のように、1人で育てるのは無理だと助けを求めるのも、愛情だと思う。(文・田渕紫織、写真・大野洋介)=朝日新聞2020年9月19日掲載