アフターコロナ、ポストコロナ、ウィズコロナ。どのような言葉を選ぶにせよ、現在起きているパンデミックが、社会を変えるきっかけになるのではないかと、多くの人が感じている。先行きへの不安感と、変化への期待から、「未来予測」系の本などが多く作られており、居酒屋談義にとどまるものから実践的な提言まで玉石混交だ。
そうした中でも本書がヒットしたのは、なんと言っても語り手6人の豪華さにある。ジャレド・ダイアモンド、スティーブン・ピンカー、ポール・クルーグマン――。世界的に活躍する本物の第一人者たちだ。「あの人なら一体、何と言うだろう」と期待を持って、手に取った人も多いのだろう。
さて、その中身であるが……これが大変面白い。一言で表せば、「安定感」である。ダイアモンドは、人は変化に適応するものだから、慌てず足元の課題に向き合えという。クルーグマンは、もっと金融と財政のバズーカ砲を放て、このタイミングで増税とかふざけるなと吠(ほ)える。おお、みんな、いつもと同じことを言っている!
この感想は、本書を否定するものでは一切ない。むしろ、「そこがいい」と言うべき長所である。世界はガラリとは変わらない。米中摩擦も歴史問題も気候危機も、依然としてそこにある。女性差別もEUのごたつきもAIについての議論の遅れも、相変わらずそのままだ。人々のバイアスを指摘し続けてきたピンカーも、本書でこう言っている。「落ち着け」と。
「コロナ後」と聞いて、大言壮語や革命的惹句(じゃっく)を求めている人には、冷や水を浴びせるような内容だろう。しかし、そうした人にこそ読んでもらいたい。各識者がこの半年の変化を振り返る部分だけでも、随分と頭が整理される。同じテーマが多角的な目線で語られることによって、専門領域の特技なども見え隠れする。さらりと読めて、一息つける。久々に、「新書」っぽい本を読んだ。=朝日新聞2020年10月3日掲載
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文春新書・880円=4刷10万部。7月刊。昨年末に6人にインタビューしていた大野氏が、コロナ流行後に追加取材をしてまとめた。男女の幅広い年齢層に支持されているという。