3本の作品を収めた短編集だ。表題作の主人公・えりは、推し俳優の出待ち中に薄い対応しかされなかったことから、「私がもっと可愛かったら」と整形手術を繰り返す。顔の印象とは不思議なもので、一目で心奪われることもあれば、内面まで計れるような気になることもある。似た顔同士でも、自信に溢(あふ)れている人もいれば、コンプレックスに悩む人もいる。何とも不明瞭で、そこに大なり小なり価値を与えているのは外ならぬ自分なのだが……。えりの気持ちを思うと心がヒリつくが、目が離せない。ルッキズムと暴走するファン心理に囚(とら)われたえりの運命は?
「怪物の庭」は、イタリア中部に実在するボマルツォの怪物公園の成り立ちを描いた作品だ。偉大な師匠を持つ芸術家と変わり者の領主、個々の苦悩を丁寧に掘り下げることで、歴史の行間が気持ちよく埋まってゆく。
町が、国が、戦争によってじわじわと壊れてゆく「バジリスクの道」には呆然(ぼうぜん)とした。兵器同様の破壊力がありながら、誰もが持ちうる“負の感情”は、目に見えず、気が付けば取り返しのつかない深部にまで到達している。そんななか、ある少年がとった行動があまりに切ない。=朝日新聞2020年10月3日掲載