原作に感じた“高い壁”
まず気になったのは、原作に触れたときのインスピレーション。漫画を読んだ感想として、3人とも「これを映画化できるのか」という懸念が頭に浮かんだという。「現実離れした設定で、見たことのない世界観だと感じました」(齋藤さん)、「すごく壮大で、この想像力についていけるのか」(山下さん)、「普段触れている少女漫画とは、全然違う世界でした」(梅澤さん)と、“高い壁”のような感触があったことを次々と口にした。ただ、その一方で“だからこそやりがいがある”という意気込みも感じたという。
極端な人見知りでありながら、人並み外れた空想力を持つ監督の浅草みどり。カリスマ読者モデルで、著名な俳優を両親に持つアニメーターの水崎ツバメ。人目を惹く高身長で、金儲けに目がないプロデューサーの金森さやか……。いずれも個性豊かなキャラクターで、一人ひとりがラスボス感、落語でいう“真打ち”のような感触がある。それだけに、なかなか演じることは困難なように思えるが、しかし映画における齋藤さん、山下さん、梅澤さんは、それぞれ原作における浅草みどり、水崎ツバメ、金森さやかの“幹”の部分を確かに受け継いでいると、原作ファンの筆者には感じられた。
3人はどのように、映画と対峙したのか。たとえば山下さんは、「原作ファンの方が思い描くような水崎ツバメを演じたかった」と語る。「そのため、SNSでファンの方の声を入念にチェックしたりして、“こういうのがツバメだ”という像を自分の中で固めました。自分のやりたいことを貫き通すという意味では、ツバメは私にも似てましたし、だんだん私と重ねるようにもなりました。そうして撮影に入るころには、ツバメのことは大好きになっていきましたね」
梅澤さんは、「金森の“頭の良さ”を意識した」という。「金森はほかのふたりと違って、アニメの知識はなかったので、ふたりが妄想を爆発させまくっていることを締めるというか、いわゆるマネージャー的な立ち位置です。それをうまく反映させるようにしました」。それはふだんの梅澤さんのあり方とも大きく離れてはいなかったという。「ふだんの仕事の中では、言葉や態度を表に出す前に、まず自分の中でいったん飲み込んで、どうするべきかとよく考えます。日々自分と向き合うという意味では、金森と私は同じでした」
いっぽう、齋藤さんは、そんなふたりの姿勢に励まされたという。「私はむしろ、浅草みどりについてまだしっくりきていない部分があったんですけど、クランクインの時にふたりとも役になりきっていたので、それによって気合いが入ったという感じでしたね(笑)。最初は自分と真逆のところにしか目がいかなかったんですけど、次第に浅草の繊細なところ、たとえば自分の作品について他人の評価を気にして心が小さくなってしまうところとかは自分と一緒だなと感じましたし、共感できるようになっていきました」
撮影を通して3人の関係が深まった
最初はばらばらだったものの、アニメの制作を通して次第に結束を深めていく浅草・水崎・金森の3人。では、現実の3人の関係はどうなったのか。「同じ乃木坂ではありますけど、飛鳥さんは1期生であまり接点はなく、梅澤とも同じ3期生でしたけど、3人とも人見知りでしたし、最初はどうなるかという不安もありました。ただ、撮影で過酷な部分もあったことが、逆に良かったと思います。3人で力を合わせなくては絶対に成功できないところもあったので、自然と力が合わせられるようになりました。この作品のおかげでふたりのことを知れて、関係も深まっていきました」(山下さん)
「普段の乃木坂の活動とも全然違いましたし、ふたりの今まで見れなかった一面が見れました。撮影中にみんなでストーブで焼き芋を作って盛り上がったり、そういう何気ないことを通して絆が深まったと思います。また、撮影の終わった後も、こうしてインタビューとかを通して、3人で集まれることも大きいですね」(梅澤さん)
本作のように自分でも映像を作りたいか、と問いかけると、3人とも「作りたいです」と目を輝かせた。驚いたことに、3人とも興味があるのは同世代の女性たちの、いわゆる“陽の当たらない”部分に焦点を当てるようなドキュメンタリーの制作であるという。
「私たちは演出されたイメージからお仕事をもらえることが多いんですけど、当然内面はそうしたイメージと外れるところはあります。たとえば山下は清楚な感じだけど、意外にダークな部分もたまにあって、梅澤はしっかりものに思われがちだけど、ぼけっとしたところもあって(笑)。パブリックイメージよりは、ふだん注目されない部分に焦点を当てた作品を作りたいですね」(齋藤さん)
最後に、3人が普段どのような本を読むかについても聞いた。
「小説が好きで、安部公房や坂口安吾がお気に入りです。海外だとカフカとかも。ハッピーエンドよりは暗いトーンの作品のほうが好きです」(齋藤さん)
「漫画をよく読みます。最近だと『王様ランキング』(非力で聾唖の王子ボッジが、憧れの王になるために奮闘するストーリー)が好きでしたね」(山下さん)
「インテリア系、美容系の雑誌をよく読みます。海外のインテリアに触れてこんな生活ができたらいいな、と憧れたりします」(梅澤さん)
映像に対する興味はある程度重なりを見せながらも、演技に対するスタンスや本の好みは対照的な3人。そんな彼女らの個性がぶつかり合った快作、「映像研には手を出すな!」をぜひ劇場で見てほしい。