古代オリエントを起源とし、人々を魅了してきたガラス。どのように世界に広まったのかを探った『イスラーム・ガラス』は学術書ではあるが、ガラス器の美しい色や形を伝える写真、歴史秘話も随所にちりばめられ、専門外の読者が手にとってもガラス文化の奥深さに包まれる一冊だ。
著者の真道(しんどう)洋子さんは東洋文庫に籍を置き、発掘にも携わるなどこの道30年以上の研究者だった。しかし2年前、トルコで交通事故に遭い亡くなった。残された初稿が親交のあった桝屋友子・東京大教授の監修で出版された。
メソポタミアで製造され、エジプトの技術と統合されたガラス文化は、多彩な装飾ガラスを生み出す。それがベネチアから欧州へ、中国を通して日本にも伝わった。
専門的な記述もあるが、好きなところだけを拾って読むのもいい。例えば化粧や薔薇(ばら)水用のガラス瓶。アイラインを描く棒がついている。アイラインは「邪視を防ぐ」呪術的な目的もあったとか。次々と興味が広がり旅に出たくなる。(久田貴志子)=朝日新聞2020年10月17日掲載