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BL担当書店員が選ぶ「続刊&シリーズ化、切望! 続きが読みたいBL」2選

2人の日常を見守るのが極上の癒し!(井上將利)

 「続きが読みたい~!」と思うBL作品は数知れずですが、仕事で疲れた時に無心で摂取したくなる作品が今の僕には必要だ!ということで、宮田トヲルさん2作目のコミックス「デリバリーハグセラピー」(リブレ)をご紹介。そうです、ハグをデリバリーするセラピストのお話です。なんて簡単には終わらない魅力と癒しが詰まった作品となっております!

 桜庭貴一は、一人平穏な暮らしを求める会社員。誰かと一緒に過ごすなんて鬱陶しいと、恋愛からも遠ざかった日々を送っていました。そんな彼が唯一、生涯傍にいたいと思った親友(男)もついに結婚。親友に抱いていた気持ちの正体に気付かないまま喪失感だけが心を締め付け、結婚式の帰りに取引先のバーで飲み過ぎて寝てしまう始末……。

 そんな彼を介抱したのはバーで働く20歳の大学生、木島尚でした。どこか人懐っこくも大人びている尚に居心地の良さを感じた貴一は、迷惑をかけたお礼を兼ねて彼を自宅に泊めるのでした。そして彼と身の上話をするうちに自分が親友に抱いていた気持ちが好意であったと気付かされ、同時に失恋した貴一。そんな貴一に対して尚は「じゃあ貴一さん、どうぞ」と何故かハグをしてくれて……!?
尚に包まれた貴一は彼の温もりに強烈な癒しを感じ、それ以来、なぜか週に一回ハグをしてもらうという不思議な関係が始まるのでした……。

©宮田トヲル/リブレ

 本作において、まずお伝えしたいのは尚くんの癒しの中毒性! なんとも柔らかな笑顔に引き寄せられ、1話2話と読み進めるにつれてどんどんハマっていきます(仕事で疲れた心なんて一瞬で絡めとられます笑)。さらに、そんな天性の小悪魔キャラで貴一を弄ぶ尚ですが、貴一からの予期せぬ反撃を受けて思わず動揺しちゃうんです。火照った顔を両手でパタパタ扇ぎ、照れた表情で目をそらし、これは反則レベルでヤバいやつ。そしてその雰囲気や表情を描いて表現できる作者が何よりもヤバい(すごい)わけです(笑)。

 そんな無限大の癒しを感じつつ、物語は2人の関係を近づけていきます。周囲の空気を読みながら居場所を取り繕ってきた尚は、自分が貴一にとって都合の良い存在であり続けることで傍にいられると考えるのですが、貴一はそんな尚の固く閉ざした心をこじ開けてくれて……。お互いを想い合うハートフルなストーリーが堪能できる本作。尚の癒しオーラに目が眩みますが、貴一が「年下の子に何言ってんだ俺……」とか悶々とするところも思わず萌えてしまうはず。

 ちなみに、僕が一番好きな場面は2人の距離がグッと近づき、貴一が尚の顔を触るところ。頭を撫で、髪をくしゃっとし、頬を触り、唇をむにっとする一連の動作が1ページ5コマに渡り描かれている何とも“贅沢な”シーンでございます(笑)。

 この2人の日常をただただ見守りたい。そんな「続きが読みたい」作品のご紹介でした!

愛しさと切なさと喜びと。感情溢れる人間ドラマ(キヅイタラ・フダンシー)

 好きな作品の続刊を楽しみに待つのも漫画の醍醐味。続きが読みたい、結末を見るまでは死ねない……そんな糧となってくれますよね。中でも特に続刊を待ちわびて仕方がないイチオシ作品を紹介させていただきます!

 古宇田エンさん「オレとあたしと新世界」(オークラ出版)

 しのぶと誠の人生の軌跡を中心に描く本作、現在3巻まで発売中なのですが、なんて言うんでしょうか、各巻でのドラマがすご過ぎて何度も読み返しながら4巻を心待ちにしています(この思いが通じたのでしょうか、近々およそ2年ぶりに連載が再開するそうです! 歓喜……!!)。

 日雇い労働者の誠(マコちゃん)が現場の同僚に連れられて、しのぶが働くゲイバーを訪れたことから2人の道は交わりました。色恋の盛んなオネエのしのぶと、外国人風のルックス&男前でモテまくるノンケのマコちゃん。恋なんて生まれるの?という感じですが、マコちゃんの現場でのいざこざをきっかけに友達になり、マコちゃんがしのぶの家に居候状態に。互いを知っていくうちに2人は恋人になったのでした。

 多くは語らずとも、過去の境遇からか偏った狭い世界しか知らずに生きてきたマコちゃん。しのぶと付き合い、賑やかな仲間たちに囲まれることで感情も豊かになっていくようで、順風満帆な関係にほっこりしていたら、まさかの展開に。みんなで出かけた海遊びの帰り、交通事故に遭い、しのぶは昏睡状態になってしまうのです……。ここからが、この作品のスゴイところ。マコちゃんや、オネエ仲間、しのぶの母・百合子たちが、しのぶの目覚めを待ちながら懸命に看病を続け、あっという間に時が経ち――。

古宇田エン「オレとあたしと新世界」1巻(オークラ出版)より

 しのぶの意識が戻るのは、なんと10年の歳月が流れてからとなるのです。みんな等しく年を重ね、世の中も変わり、マコちゃんも就職し……、それでも変わらなかったのは、いつかしのぶが目を覚ますという奇跡を待ち続けたこと。ようやくみんなの願いが叶ってから、本当の物語が始まります。

 浦島太郎状態のしのぶと、10年支え続けながら色々な経験を重ねたマコちゃん。確かな情でつながっている2人にも、時間という埋めようのない事実ができてしまい、2巻、3巻と描かれる人間ドラマに、それぞれの目線から見て、愛しかったり切なかったり喜んだりと、さまざまな感情が沸き起こる作品です。

 でも、ただただシリアスな展開なのではなく、笑いのバランスも絶妙。しのぶは前向きで行動力もあってかっこいいオネエ、でも人間味もあったりして、マコちゃんも10年の間の成長がすごく素敵で、ちょっと流されやすいところもかわいい。そんな2人に加えてストーリーを彩る名脇役たちも揃い踏み。本当に読み応えがあって、応援したくなるので是非体感していただきたいです!

 3巻も絶妙なところで続く……となっていて、核心に触れられていなかったマコちゃんの過去や、2人の行く末、もう気になって気になって仕方がありません!(笑)

 表紙イラストが2巻、3巻となるにつれ、マコちゃんを意識しているしのぶに対して、マコちゃんはどこか違うところを見ているような風に見えて……、一体どうなっちゃうの~!?と、そわそわしながらも、2人の幸せを願って止まないのでした。