ここ数年、講演会や料理ショーで、「ごはんを作るのがしんどい」という声を聞くようになりました。働く女性が増えて、生活も意識も変わっているのに、家庭の食卓は依然、女性が一人で担っているケースが多いように思えます。料理研究家の僕ですら、皆さんと同じように毎日ごはんを作るのが正直しんどい……。なぜ、しんどいのか、どうしたらいいのか。料理をする人が楽になれる元気になれるような本を作りたいと、初めてエッセーの形で出させてもらいました。
要因として真っ先に考えられるのは、日本の家庭料理のレベルが高すぎることです。世界の食卓は驚くほど質素で、取材で訪れたフランスのご家庭では朝はバゲットやシリアルだけでした。平日は料理をしないという。日本のように毎日違う献立ということもなかった。
肉じゃがだったら大量に作れば数日は食べられますし、日本には鍋という肉も野菜もとれる最高の料理もある。毎日肉じゃがでも鍋でもいいやん! 現実はそうはいきませんが(笑)。
僕も、僕のマネジャーをしている妻と、3人の子育て中です。家事は分担していますが、疲れて食事を作る気になれないときは宅配ピザも利用します。栄養も毎食毎食バランスをとる必要はないと思っています。
日々のごはん作りは「やっても褒められないけど、やらないと文句を言われる」という究極に理不尽な作業です。それがどれほど大変で、苦痛を伴うのかを分かってほしい。もっと感謝の気持ちを持ってほしい。この書は、そんな「食べるだけ専門の人」に向けたメッセージの本でもあります。今一番重要なのは、そんなごはん作りを取り巻く環境や家族の考え方を変えていくことだと強く思っています。(聞き手・久田貴志子)=朝日新聞2020年11月18日掲載