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大町テラス「まにまに道草」 ハルコさん(48)の1人娘が独立して…

 一人娘が大学進学により家を出た。空っぽになった部屋を掃除しながら小さくため息をつく。肩の荷が下りたような寂しいような……。そんなハルコ(48)の新しい生活をじっくりと軽やかに描く。

 散歩がてら昼日中から銭湯に入ったり、元同僚が独立開業したデザイン会社の仕事を手伝ったり、初めてハマった“推し”が出演するドラマを見まくったり。持て余し気味だった自由な時間と喪失感を埋めるものを少しずつ見つけていく。それは「お母さん」から一個の人間に戻るためのリハビリなのだろう。

 注目すべきは、夫が彼女を「君/あなた/ハルコさん」と呼ぶ点だ。そういう人だからこそ2人で立ち飲み屋で晩酌したり映画を見に行ったりできる。母娘の関係を主題としてはいるが、夫婦の物語でもあるのだった。そしてまた子供のいない旧友とのエピソードも胸にしみる。

 全16話に毎回何かしらの食べ物が出てくるのも見逃せない。クレープ、とんかつ、自家製漬物、ピザ、映画館のポップコーン……。それらが脇役として、文字どおり“いい味”を出している。旅立つ娘に「いっぱい食べてよく寝てね」と母は言う。人生とは、畢竟(ひっきょう)それに尽きるのだ。=朝日新聞2020年11月21日掲載