村山由佳 作家
- 桜木紫乃「家族じまい」(集英社)……(1)
- 桐野夏生「日没」(岩波書店)……(2)
- 松重豊「空洞のなかみ」(毎日新聞出版)……(3)
(1)孤独さえ悪くないと思わせてくれる、地味が滋味に通ずる秀作。(2)権力の暴走に鈍感であることの怖(おそろ)しさ・愚かさに呼吸が浅くなる。今こそ必読の書。(3)横目で読み始めてすぐに居ずまいを正す羽目に。物書きでない人にここまで書かれると、物書きは困るのです。
円城塔 小説家
- ヴァネッサ・スプリンゴラ「同意」(内山奈緒美訳、中央公論新社)……(1)
- デイヴィッド・マークソン「ウィトゲンシュタインの愛人」(木原善彦訳、国書刊行会)……(2)
- 小林泰三「未来からの脱出」(KADOKAWA)……(3)
(1)では未成年者への性犯罪に対する社会の身勝手さが胸に迫る。(2)は人間の思考がどれほどはかないものなのかが、滅びた世界で静けさとともに描かれる。(3)は認知症をわずらうらしい人物を主人公とするSFミステリー。先頃急逝した著者の一つの到達点。
小野正嗣 作家・早稲田大教授
- ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ「忘却についての一般論」(木下眞穂訳、白水社)……(1)
- ウィリアム・トレヴァー「ラスト・ストーリーズ」(栩木〈とちぎ〉伸明訳、国書刊行会)……(2)
- 米本浩二「魂の邂逅(かいこう) 石牟礼道子と渡辺京二」(新潮社)……(3)
アンゴラ出身で国際的に注目される作家の代表作が(1)。独特の文体と構成に魅了される。(2)は端正な文体で悲しい人間の心の震えを伝える短篇(たんぺん)集。何度も読み返したい。(3)は稀有(けう)な二つの魂の半世紀に及ぶ「道行(みちゆき)」を追いかける。慎みと敬愛に満ちた筆致が素晴らしい。
*番号は順位ではありません=朝日新聞2020年12月16日掲載
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