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中国勢隆興で翻訳もの元気 「中国・アメリカ 謎SF」など池澤春菜さん注目のSF3冊

  • 中国・アメリカ 謎SF(柴田元幸、小島敬太編訳、白水社)
  • 2000年代海外SF傑作選(橋本輝幸編、ハヤカワ文庫SF)
  • ロンドン謎解き結婚相談所(アリスン・モントクレア、山田久美子訳、創元推理文庫)

 SFが元気だ。今までと違うのは、非英語圏からの翻訳が盛んだと言うこと。その流れを作ったのは、間違いなく中国SFの隆興だろう。

 『中国・アメリカ 謎SF』、その名の通り、中国・米国の不思議なSFを集めたアンソロジー。謎マシン、謎世界コンタクト、謎の眠り、謎謎謎。「軽妙で、でも深くて、とにかく面白い」日本ではまだ知られていない作家たちの傑作揃(ぞろ)い。選者兼訳者は、翻訳界の大巨人柴田元幸さんと、シンガー・ソングライターとしても活躍する小島敬太さん。小島さんはなんと初翻訳。

 ページを捲(めく)る毎(ごと)に、まだこんな面白いSFがあったのか、SFってこんなこともできるのかと、ワクワクソワソワした。個人的に好きなのは、タイトルで全てがわかる「焼肉プラネット」、ナンセンスで面白くてお腹(なか)が空(す)く。

 巻末の柴田さん小島さんの対談も必読。

 もちろん、過去の作品の掘り起こしも大事。『2000年代海外SF傑作選』『2010年代海外SF傑作選』、なんと年代別アンソロジーの刊行は18年ぶりだとか。

 まずは2000年代。『三体』の劉慈欣(リウツーシン)らしい、社会風刺と人の愚かさ、絶望に立ち向かう姿を描いた「地火」。謎に満ちた芸術家の最後の作品に残された青の秘密を描く「ジーマ・ブルー」。2010年代からは「乾坤(チェンクン)と亜力(ヤーリー)」。子守ロボットが、なんとか子供を理解しようとする心温まるお話。続く「ロボットとカラスがイーストセントルイスを救った話」では見捨てられた医療ドローンと烏(からす)が伝染病を食い止めようと活躍する。わたしはこれが一番好き。短編と言うより中編のボリューム、テッド・チャンの「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」、人工生命体やヴァーチャルな世界など、今の少し先を描く。

 かわって『ロンドン謎解き結婚相談所』の舞台は第2次世界大戦後のロンドン。ひょんなことから結婚相談所を営むことになった、アイリスとグウェン。特殊訓練を受け、情報部で働いていたアイリス、上流階級の出身で、貴族の夫を戦争で亡くしたグウェン、まるで違う2人はそれぞれ人に言えない過去と痛みを抱えていた。ある日、入会したての若い女性が殺され、犯人とされたのはマッチングしたお相手だった。2人は彼の無実を信じ、それぞれの特技を生かして謎解きに乗り出す。アイリス&グウェンの軽妙な会話、それぞれの異なる強さと弱さ、いけ好かない相手をやり込める痛快さ、思いがけないロマンスと、唯一無二の友情。

 続きが楽しみなシリーズの開幕。=朝日新聞2021年2月24日掲載