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「グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争」書評 政略で国際法を用いた鉄血宰相

評者: 呉座勇一 / 朝⽇新聞掲載:2021年03月06日
グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争 ビスマルク外交を海から捉えなおす (NHKブックス) 著者:飯田洋介 出版社:NHK出版 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784140912676
発売⽇: 2021/01/26
サイズ: 19cm/286p

日米を巻き込んだ「もうひとつの独仏戦争」プロイセンがフランスを終始圧倒して勝利した“普仏戦争”の裏で、ビスマルクは米国にアプローチし、国際法に頼ろうとしていた――なぜか?…

グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争 ビスマルク外交を海から捉えなおす [著]飯田洋介

 著者は前著『ビスマルク』(中公新書、2015年)で、デンマーク、オーストリア、フランスとの3度の戦争を主導しドイツ統一を成し遂げた「鉄血宰相」のイメージを解体した。ビスマルクは決して好戦的な政治家ではなく、刻々と変化する内外の情勢に対応し続けた結果、戦争を選択したにすぎない。
 本書では、ビスマルク外交をヨーロッパでの勢力均衡に限定せず、独仏戦争時における日本・米国への働きかけも視野に入れ、海の視点から捉え直す。具体的には、グローバルに活動するドイツ商船をフランス海軍から守るためのビスマルクの苦闘を描く。
 当時のフランスはイギリスに次ぐ海軍大国であり、ドイツ海軍は到底太刀打ちできなかった。ビスマルクはこの差を埋めるべく、米国からの軍艦調達を検討するが、強力な軍艦を米国が売却するはずがないというドイツ海軍の反対により頓挫する。
 そこでビスマルクは、武器弾薬などの戦時禁制品を積載していないフランス商船は拿捕(だほ)・没収しないと宣言する。相互主義の観点から、フランスも同様の措置をとることを期待したのだ。以前から米国は、当時の国際海洋法とも言えるパリ宣言を改定し商船保護を強化することを訴えており、米国の支持を得られる見込みもあった。
 だが思惑は外れ、フランス海軍は世界中の海でドイツ商船を襲撃・拿捕した。国際法違反と見られる事例に関してビスマルクは逐一非難したが、イギリスはじめ欧州諸国は冷淡だった。英米を巻き込んだ日本・中国水域中立化も失敗した。苛立(いらだ)つ彼はパリ宣言からの逸脱を示唆し、対仏商船保護宣言を撤回した。
 国際法遵守(じゅんしゅ)をアピールし、国際法改定を図る外交姿勢は、旧来の武断的なイメージと対照的だ。しかし理念なきまま政略として国際法を持ち出した点に、ビスマルク外交の限界がある。現代に通じる教訓だ。
    ◇
 いいだ・ようすけ 1977年生まれ。岡山大准教授(ドイツ近現代史、近代国際政治史)。『ビスマルクと大英帝国』など。