「現代中国の秘密結社」他1冊書評 社会分析と現地取材で見極める
ISBN: 9784121507167
発売⽇: 2021/02/09
サイズ: 18cm/325p
ISBN: 9784041069684
発売⽇: 2021/03/02
サイズ: 20cm/260p
現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史/「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本 [著]安田峰俊
国家権力による庶民保護の観念が歴史的に希薄な中国では、相互扶助を目的とする秘密結社が次々と生まれた。『現代中国の秘密結社』は、急速にハイテク化した中国の深層に今なお息づく伝統的な人間関係に光を当てている。
18世紀に福建省で生まれ世界中に広がった任俠(にんきょう)的な秘密結社「洪門」(天地会)の解説が面白い。洪門は孫文を支援するなど、中国近現代史にも大きな影響を与えた。今では多様化し、中華人民共和国の体制内政党「中国致公党」から香港デモを支持する反共的な一派、完全なマフィアまで千差万別で、加入儀礼をインターネットで公開している組織まである。
また、新型コロナウイルスのフェイクニュースで最近話題になった「法輪功」はもとより、「全能神」や中国に進出した韓国カルト教団など多彩な新興宗教を網羅的に紹介する。しかし決してキワモノ的な扱いではなく、記述の根底には中国社会に対する学術的な理解がある。
中国の急激な経済成長にともない、日本に来る出稼ぎ外国人のメインは、中国人からベトナム人に置き換わった。犯罪摘発人数も中国人に迫りつつある。『「低度」外国人材』は、コロナ禍の影響にも目配りしつつ、この変化の最前線を追ったものだ。
中国人・ベトナム人の技能実習生・不法滞在者や送り出し機関・受け入れ先企業の関係者などへの詳細な取材を通じて、非熟練労働に従事する在日外国人を取り巻く悪循環の構造をあぶり出す。北関東家畜窃盗事件の真相に肉薄する終章も含め、異世界をのぞき見るような興味本位を排し、私たちの問題として引き受ける覚悟が鮮明だ。
両書から浮かび上がるのは、マクロな社会分析とミクロな現地取材を組み合わせて、ありのままの現実を見極めようとする著者の真摯(しんし)な姿勢である。実態認識を欠いた紋切り型の擁護/非難は無意味なのだ。
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やすだ・みねとし 1982年生まれ。ルポライター。著書『八九六四』で大宅壮一ノンフィクション賞、城山三郎賞。