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村本大輔さん「おれは無関心なあなたを傷つけたい」インタビュー 原発・沖縄・朝鮮学校…笑いでガスを抜く芸人の仕事

文:朴順梨 写真:疋田千里

誰かと直接会って話した、リアルな声

――いきなりですが、Amazonのレビューが星5つばかりですね。

 佐賀でバイトを雇って高評価にさせてるからですよ(笑)。という冗談はさておき、レビューを見ていないけれど、僕が見たものや感じた“個人的なこと”を書いているのが受け入れられたのかなと。すべて僕が、人と直接会って聞いて、その時に感じたことを素直に書いているんです。

 テレビに連日出ていた時には、誰かのリアルな声に触れる機会がほとんどなかった。たとえば、プロデューサーに「村本さん最高でしたよ。村本さんが出た瞬間に数字が爆上がりしましたよ!」って言われても、それはリアルな声ではないと思うんです。

 でも、沖縄に行った時に「基地が必要だ」という若者に「僕をどう思う?」と聞いたら、「自分たちを無視しないでくれて嬉しい」って言われて。これこそがリアルな声じゃないですか。勇気を出して「僕をどう思う?」って聞いてよかったなって、この時すごく思ったんです。

――2019年に自身のnoteに投稿した「手作りキンパに想うこと」という、朝鮮学校についての記事を見た編集者から執筆の打診を受けたけれど、最初は断ったそうですね。なぜ書籍化を決意したのですか?

朝鮮学校にて独演会をする村本さん(『おれは無関心なあなたを傷つけたい』より)

 僕が広島で独演会をすると、必ず来てくれる高校の先生がいて。その人に何年か前に、「生徒たちの前で独演会をして欲しい」と言われたんです。行ってみるとその高校は通信制で、高校卒業資格を取るために朝鮮学校と掛け持ちで通っている生徒たちが、何人もいました。その時に朝鮮学校の生徒たちが置かれた状況を知り、その後大阪の朝鮮学校で見たことをnoteに書いたんですね。

 でもその記事だけでは短かったし、それを無理やり分厚くするのは嫌じゃないですか。だからnoteをベースにして、2年ぐらいかけてあちこちに行った話を書き下ろして、ようやく貯めて1冊にまとめました。

――以前、堀潤さんのYouTubeに出演した際、「本を読むのがしんどい。岡本太郎の本は読めるけれど、無理やり読もうとは思わない」って言ってましたよね。本を読まないながらも、どんな本にしようかと?

 誰かに届けたくて書いたとかでは、全然なくて。独演会や漫才では笑いを取ってオチをちゃんとつけないと、お客さんは聞いてくれないじゃないですか。でも本は笑いを取らずに真実を語っていい場所だから、思ったことというか、しゃべってることを書いたというか。僕がばーっとスマホで書いたものを編集者に送って、「あとはお任せします」みたいな感じです。

村本さんが福島原発を見学した時の1枚(『おれは無関心なあなたを傷つけたい』より)

僕は地雷を踏んでから地雷に気付く

――「おれは無関心なあなたを傷つけたい」というタイトルですが、最後までこのタイトルで進めるか悩んでいたそうですね。

 最初は今のタイトルを考えていたんですけど、書いていくうちに「本当に世間の人って無関心なのかな、無関心って何なのかな」って思うようになったんです。発言しない人は発言しないだけで、無関心ではないかもしれないから、決めつけるのはどうなのかなと。

 たとえば原宿に集まる人たちを「平和ボケした日本人たち」と言ったとしても、その一人一人にそれぞれ思いがあって、平和ボケなんてしてないかもしれない。だから「無関心なあなた」と言ってしまうのはどうかなと思ったのですが、「実際傷つきました」って読んだ人から言われることもあるので、結果的には良かったなと。

――冒頭の「手作りキンパに想うこと」を読んで、ついほろっと来てしまいました。私も在日コリアンですが、存在を無視されていないんだなと思ってしまって。日本では朝鮮学校に対する風当たりは強いのに、臆することなく書けたのはどうしてですか?

 僕は地雷を踏んでから地雷があったことに気付くというか、「あ、これ言っちゃいけなかったんだな」って、叩かれてから気づくんですよ(笑)。でも、思っていることを話すのは個人の自由だから、おかしなことはおかしいと大きな声で言っているだけです。

 以前、松本麗華さん(アーチャリー、麻原彰晃・オウム真理教教祖の三女)と食事したことがあるんですけど、その時の写真を普通に紹介したら、ネット上で炎上してしまった。

 でも、父親が麻原彰晃であったとしても、村八分にするのはおかしい。そもそも村なんて本当は存在しないのに、そこから在日の人を追い出そうとしたり、地震が起きると「朝鮮人が井戸に毒を入れている」みたいな書き込みが増えることもおかしい。存在しない村にしがみついて、誰かを外に出そうとすることがおかしいと、昔からずっと思っていたんです。

日本人はもっと笑い方を覚えた方がいい

――今の日本への強い怒りを持ちながら、それをちゃんと笑いに落とし込んで伝えようとしていることが、この本から感じ取れました。

 日本人は泣き方や怒り方をいっぱい知ってはいるけれど、もっと笑い方を覚えた方がいいんじゃないかと思っているんですよ。この間、ミャンマーの軍事政権に抗議する若い女性が「私の元彼はひどいけど、ミャンマー国軍はもっとひどい 」ってプラカードを掲げてるのを見て、クスっと笑ってしまって。

 日本のデモでは政治家の顔に×印を付けるプラカードとかが見られますが、もっと自分の言葉で伝えて欲しいと思うんですよ。同じ言葉や団体の幟で表現するのではなく、自分の言葉や思いをすごく大事にして欲しい。僕が団体や集団に関わらないのは、団体になると自分たちの主張に反する意見を排除しようとするから。それに団体になると、メッセージが伝わりにくくなってしまうのではないかと思うんですよね。

笑いでガスを抜いて、誰かをラクにする

――非当事者のマジョリティーが、当事者のマイノリティーについて語ると「お前に何がわかる!」と言われることもあります。

 LGBTQの問題にはLGBTQばかり、沖縄の問題には沖縄の人ばかり、在日朝鮮人への差別問題も当事者ばかりが考えているのはおかしいと、僕はずっと思っているんです。皆が大きな声をあげてくれたら戦えるし、僕は沖縄の問題も民族差別の問題も日本の問題だし、女性の問題は男性の問題だと考えていて。なのに当事者だけの問題に矮小化している現状があるので、それを僕はお笑い芸人として面白がりたいって気持ちが、どこかにあるのかもしれません。

独演会後、朝鮮学校の生徒たちと会話する村本さん(『おれは無関心なあなたを傷つけたい』より)

――お笑い芸人の世界でも横のつながりって強いですよね。個人でいることを選択するのは、勇気が要ったのではないかと思います。

 ステージに立つのは僕だけであって、楽屋の付き合いは仕事ではないので、舞台の上が全てだと思っています。舞台の上で面白ければまた使ってもらえるし。今では年に1回のテレビ出演になった「THE MANZAI」のネタは賛否が分かれていますが、僕は沖縄や原発のネタを持ち込みたいから持ち込んでいるだけです。持ち込みたくない人の気持ちも尊重したいから、批判に反論はしません。でも僕の作品は僕の作品で、僕だけのものです。

――アメリカのスタンドアップコメディーが好きで、何度かコメディークラブの舞台に挑戦したエピソードにも触れていました。またチャレンジしに、アメリカに行きたいですか?

 行きたいですよ! だって日本のお笑いは、言ってみれば皆が時速40キロぐらいしか出していない状況だから、僕が60キロ出しただけで「すごい!」って言われます。でもアメリカには120キロ以上出して暴走する奴らが、たくさんいますからね。僕もいつの間にか周りにスピードを合わせてしまい、飛ばしているつもりが全然飛ばしてなかったりするので、アメリカに行っていろいろなものを見て学びたいんです。

 スタンドアップコメディーを披露するコメディークラブは、言論の自由が認められている場所です。だからユダヤ人の芸人がアウシュビッツをネタにしたり、黒人の芸人が黒人差別をネタにしていて、それを見て観客は笑っています。笑うというのは心の中で思っているからだろうし、悲劇を喜劇にし笑わないと、どこでガスを抜けばいいのか。だからステージの上で、笑いで誰かのガスを抜いて、その誰かを生きやすくする。それは芸人にしかできないことだと思っているから、僕はそれをやりたいんですよね。