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BL担当書店員が青田買い!「期待のニューカマー2020」

衝撃の連続が止まらない“ゾンBL”(井上將利)

 2020年のデビューコミックスの中から「期待のニューカマー」を選出! ということで、今回ご紹介するのは2020年12月に発売された富田童子さんの「BOYS OF THE DEAD」(Canna Comics)です。この1年も多くのBL作品・作家さんがデビューされた訳ですが、今回1冊を選ぶにあたっては一切悩みませんでした。発売当初から何というか「気配が漂う」というか……「何か違うぞ」という奇妙な感覚があったのを覚えていて、それぐらい断トツの存在感を放つ作品でした。

 本作の世界観は噛まれると変異体と呼ばれるゾンビ状態になってしまうウイルスが蔓延した世界。人々の豊かな生活は混乱を極め、死と隣り合わせな状況の中で3つのストーリーが描かれています。その1つが表紙にも登場しているライナスとコナーのお話。2人は生き延びる為に教会の墓を掘り返し、死体を食料として盗んで食い繋ぐ生活をしていました。他に食料もなく、確実な死が迫る極限状態の中でも彼らは愛し合い、時に明るく楽しいやり取りを交わしながら小間切れにした人肉を食べるのですが、そんな平穏な(?)日々がいつまでも続くはずもなく……、というストーリーです。と、壮絶なあらすじをサラッとご紹介しましたが、正直ここまで強烈な世界観の作品は非常に新鮮でしたし、少なくとも斧で首を切り落とすような少年はコナー以外にBL作品で出会った記憶がありません(笑)。

©︎富田童子/プランタン出版2021

 そしてデビュー作とは到底思えない作品独特の世界観を演出する細部までこだわった描写が素晴らしく、ゾンビはひたすらグロテスクだし、人間には絶望が刷り込まれたような表情や顔色が感じられるのが凄いところ。

 本作における率直な印象としては、すごい漫画家さんと出会ってしまった‼という想いと共に「狂喜乱舞」「おぞましい表現力」という衝撃の連続でした。同時に、登場人物たちの口から語られる言葉に、人間の本質を教えられるようなハッとする瞬間も多くありました。

 「あんた一体何が見えてんだ?――」

 これはライナスがゾンビの赤子を大切に抱える女に放った言葉です。自分の見ている景色は自分が正当化した世界、そして自分が守るべき世界。僕にはそんな想いが込められているように感じました。そして、この言葉はライナス自身にも向けられていくのでした。

 狂気渦巻く世界で一人ぼっちは寂しい。相手がゾンビだろうが人間だろうが、生きていようが死んでいようが、大切な人、守りたい人、支え合いたい人とのかけがえのない愛情を描いた本作、そして富田童子さんの今後の活躍に注目せずにはいられません!

報われなくてもいい。相手の幸せを願う、大人の恋愛(キヅイタラ・フダンシー)

 新しい作家さんとの出会いが多いのもBLの魅力の1つです。電子コミックが広がってきたこともあり、新連載が次々出てきて読者としても嬉しい限り♪ 2020年、数多く登場したデビューコミックスから、今回はこちらを紹介させていただきます!

 柵飛ヒツジさん「犬と鶯」(ふゅーじょんぷろだくと)

 物語の舞台は小さな居酒屋「初鶯」。そこで働く犬飼は5歳年上の調理担当・柳に惚れています。でも好きな相手だからこそ気付いてしまった、柳はオーナーの藪島が好きだという事実。結婚して娘もいる藪島に想いを寄せる柳の幸せを願いながらも、独占したい気持ちを隠せない犬飼は酔った勢いで柳に迫ってしまい……。

 突然、犬飼の気持ちを知って動揺する柳でしたが、少しずつ向き合うようになっていきます。ワンコ系な犬飼もグイグイアプローチを掛けてデートを重ねるように。報われない者同士の恋の行く末はどうなるのか――?

 少しずつ心の距離を近づけていく2人。水族館デートでの犬飼の直球な言葉が、柳の気持ちを動かしたんじゃないかと感じられて、このシーンがとても好きです!

『犬と鶯』©︎柵飛ヒツジ/FUSION PRODUCT

 恋愛って自分のためじゃなくて、相手の幸せを願ってするものだよなー、とグッときました。しっかり柳に執着を見せて押しも強いけれど、まっすぐに相手のことを想う犬飼、男前でかっこいいです!

 柳も落ち着いた年上の人らしい魅力を出しながら、恋愛には不慣れで反応がいちいち可愛らしくてギャップが素敵。ビシッと割烹着できめた仕事モードと、デートの時のちょっとラフな感じの、服装とか髪型のON/OFFにもキュンとしました(笑)。

 表題作は3話で完結ですが、ストーリーがぎゅっと詰まっている感じで、2人の心の機微がちゃんと見られつつ、テンポ良く楽しめます。コミックス描き下ろし作品の柳がまたキュンとさせてくれました……ので是非チェックしてください(笑)。

 他にも、2つの短編を収録。いずれも年上が年下に救われていくような作品で、どれも優しいお話で読後感はほっこりでした。絵柄も読みやすくて、攻めが気持ちを露わにするときの表情の描き方が特に良かったです! 年下攻め・年上受けが好きな方や、BLをあまり読んだことがないという方にもおすすめしたい作品です♪