「家は生態系」書評 除菌や殺虫 やり過ぎが招く害
ISBN: 9784826902236
発売⽇: 2021/02/19
サイズ: 20cm/422p
「家は生態系」 [著]ロブ・ダン
私たちはもはやホモ・インドアラス、すなわち「屋内人」である、という現状確認から本書は始まる。現在米国の子どもたちは9割以上の時間を室内で過ごす。
世界各地の野外で研究してきた生態学者ロブ・ダンは、しかし、そんな現状にもめげない。彼は世界中の研究仲間や市民と家の中に棲(す)む生物たちを調査し始めたのである。本書はその研究の愉快な成果報告書だ。
参加者の家の各所を綿棒で拭ってもらい、それを収集し、PCR法で遺伝子解析を行う。結果には本当に驚いた。なんと屋内には冷蔵庫から玄関まで8万種の細菌や古細菌、数千種の節足動物をはじめ、約20万種の生物が棲んでいるというのである。しかも、ウイルスはそこにはカウントされていない。宇宙ステーションでさえも人間由来の細菌のコロニーができているという。そう、家はまさに生態系なのだ。
重要なのはここからだ。これまでの科学文明は、これらの生物たちを根絶する方向で突っ走ってきた。もういい加減にやめませんか、この無意味な戦い、というのがロブ・ダンのメッセージである。なぜか。
第一に、私たち自体が細菌の棲みかだからである。どんな人でも「一日におよそ五〇〇〇万個の皮膚断片」が身体から剝がれ落ち、それぞれに数千個の細菌が棲んでいて、それを食べている。しかもほとんどが無害。「病原菌を寄せ付けないように守ってくれている皮膚常在細菌」である。
第二に、過剰な除菌や殺虫でチャバネゴキブリや水道水の細菌が耐性を持つようになり、家庭内から細菌を根絶したところで結局人間に害を及ぼしかねない生物たちの天下になるだけだからである。家庭内の生態系をもっと豊かに保たなくてはならない。とくに家のクモはほとんど人間の味方だと著者はいう。
コロナ禍で何でも消毒殺菌したくなる時だからこそ読んでほしい。家の風景が一新する本だ。
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Rob Dunn 米ノースカロライナ州立大教授。著書に『世界からバナナがなくなるまえに』など。