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痛いところを突かれる「正しい女たち」など新井見枝香さんが薦める新刊文庫3冊

新井見枝香が薦める文庫この新刊!

  1. 『正しい女たち』 千早茜著 文春文庫 693円
  2. 『人生のピース』 朝比奈あすか著 双葉文庫 814円
  3. 『ほんものの魔法使』 ポール・ギャリコ著 矢川澄子訳 創元推理文庫 968円

 (1)中学で出会った遼子と恵奈は、卒業後も親友で、仕事や恋愛の悩みも打ち明け合う関係だ。しかし恵奈に紹介された恋人は既婚者であり、「正しくない」恋愛に我慢がならない遼子は、自分の「正しさ」に基づく行動を取る。それは母親が遼子に送る、迷惑な小包に似ているのかもしれなかった。自分が送りたいものだけを詰めて、「正しさ」を押し付ける。「正しさ」がテーマの短編集は、時に狂気的で、奇矯にも思えるが、ふいに痛いところを突かれる。

 (2)中学高校を同じ女子校で過ごした3人は、34歳になった今も、月に一度は集まる親友だ。しかし最も恋愛に縁遠い礼香が婚約をしたことで、残る2人の心は揺れる。みさ緒は同居していた「だめんず」を追い出し、潤子は結婚相談所を訪れた。ありがちな話にも思えるが、潤子を中心に、彼女を取り巻く人間の心理がさざ波となって、思いもよらぬ、しかし心地良い結末へとたどり着く。たとえ揺れ続けても、波に乗って海へと流れて行ける感覚は、確かに覚えがあるものだ。

 (3)魔術師たちが住む都市「マジェイア」に、種も仕掛けもない「ほんものの魔法」を使う青年アダムが現れたことで、住人たちは動揺を見せる。魔法でないものを魔法のように見せる手品師や奇術師たちは、ほんものの魔法を受け入れることができない。本当は、誰もが「あたりまえの魔法」を手に入れることができるというのに。本を閉じたあとも、現実世界にわくわくできる、名作ファンタジーだ。=朝日新聞2021年5月22日掲載