「子どもたちがつくる町」書評 本来もつ力を「開く」ことに奮闘
評者: 阿古智子
/ 朝⽇新聞掲載:2021年06月12日
子どもたちがつくる町 大阪・西成の子育て支援
著者:村上 靖彦
出版社:世界思想社
ジャンル:福祉・介護
ISBN: 9784790717539
発売⽇: 2021/04/27
サイズ: 21cm/268p
「子どもたちがつくる町」 [著]村上靖彦
日雇い労働者の多い大阪の西成に精神分析・現象学の学者が通い、子どもたちを、子どものもつ力を「開く」ことに奮闘する子育て支援団体の人々を描いた。
日本の虐待相談件数はうなぎのぼりだが、西成区の件数は横ばいだ。貧困も虐待も可視化され、「子どもを地域で育てる」のが当たり前になっているからだ。
子どもは施設に閉じ込められず、地域に居場所を確保して親子で暮らし続ける。路上生活者に挨拶(あいさつ)する実践は子どもへの人権教育となり、昼間一人で家にいる子どもを保育園へ呼び込む活動につながった。
制度の枠組みから外れる「はざま」にニーズを見つける姿勢からは、制度につながる新たな動きが生じている。法が人を統治するのではなく、人が本来もつはずの権利を起点とし、その上に法をもとづけるのだ。
行政から降ってきた制度ではなく、子どもたちの声が組織の形を決める。ここに、この町が生まれる所以(ゆえん)がある。