1. HOME
  2. トピック
  3. おすすめ
  4. 「在日史学」の第一人者・姜徳相の自伝刊行 今やらねばならぬ仕事、重ねて

「在日史学」の第一人者・姜徳相の自伝刊行 今やらねばならぬ仕事、重ねて

 日本が大きく曲がるとき、必ず朝鮮がある――。朝鮮近現代史の研究から「在日史学」を切り開いた姜徳相(カンドクサン)さんが12日、89歳で亡くなった。自らの生涯を語ったのが『時務の研究者 姜徳相 在日として日本の植民地史を考える』だ。姜徳相聞き書き刊行委員会編。

 「時務」とは、今やらねばならない仕事のこと。1960年代には、関東大震災時の朝鮮人虐殺の記録を「公開して出しておくこと」だった。米国から返還された資料や、古書などをもとに『現代史資料6 関東大震災と朝鮮人』を編み、『関東大震災』を書いた。

 一橋大や滋賀県立大などでの講義は、日韓関係史から入った。すると「日本史では語られない部分の裏面史が見えてくる」。大正デモクラシーというが、朝鮮の三・一運動に対し日本の論客は何と言ったか。運動家は記録を残さないので、日本の官憲側の資料を「反転して読む」力が必要だともいう。

 一人の人間を通じて朝鮮独立運動史を描く『呂運亨(ヨウニョン)評伝』全4巻は闘病の中、一昨年完結。読まれるべき本だと思う。(石田祐樹)=朝日新聞2021年6月19日掲載