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BL担当書店員の気になる一冊【2021年3月〜5月の近刊&新刊より】

若旦那と運転手の恋を描いた大正浪漫BL(井上將利)

 最近、気になる作品をピックアップしよう!ということで、今年4月に発売された大島かもめさんの「逢縁カタルシス」(コアマガジン)に注目です!

 大正浪漫BLということで和洋折衷な時代背景もあり、スーツや着物をビシッと着ている姿がカッコいいのなんのって……。そんな僕のツボを押さえてくれる作品を見逃すわけにはいきませんよね。

 ちなみに、作者のデビューコミックス「仕立て屋と坊ちゃん」(海王社)をはじめ「チキンハートセレナーデ」(コアマガジン)など、服が要素として登場する作品も多く、先生もしかしてスーツとか好きなのかな?と想像しつつ、秀逸に描かれるキャラクターを堪能させて頂いております(笑)。

 さて、前置きが長くなりましたが、ここからは本作の魅力をご紹介したいと思います♪

 舞台は大正12年の大阪。薬種商「伊波屋」の若旦那・伊波竜次のもとへ東京から近藤正太という男がやってきます。関東大震災で職を失った近藤は運転手として伊波屋に雇われることに。

 この近藤という男は超が付くほど素直な人間で、言われたことをそのまま行動に移すような真面目な性格の持ち主。主人である竜次からは「お前は運転のできるアホや」と呆れ半分に言われるも「アホはアホでも愛されるアホになれ」という言葉を素直に受け止め、愚直に努力を重ねていくのでした。

 そんな近藤のひたむきな姿勢に竜次は興味を持ち始めていくのですが、その過程で竜次が近藤に鉛筆とノートを差し入れる一幕がありまして、これが個人的にすごく好きな場面なんですよね。主従関係の中で主からの何気ないプレゼント……グッときます!

 そしてこの時プレゼントされたノートを近藤は日記帳にしたのですが、ある日、竜次が近藤のいない隙に日記を盗み見てしまうのでした。そこには段々と竜次への想いを募らせていく近藤の赤裸々な言葉が綴られていて……。

©️大島かもめ/コアマガジン drap

 思わぬ形で近藤の好意を知ってしまった竜次は日記を見たことを謝るのですが、「構いません、見られて困る様な事は書いてませんから」と近藤はいたって普通な様子。逆に竜次の方が「なんでそんなにさらけ出せるんや……」と動揺してしまうのでした。そんな悶々とする竜次のもとにある知らせが届き、物語は大きく転換していきます。

 2人の行く末にさらに竜次の過去も絡んでくる物語後半はお楽しみ。そして素直過ぎるが故の近藤の気持ちの変化、終盤の竜次のグッとくるセリフも必見です!

 読みどころ満載な本作で大正浪漫の旅に出かけてみてはいかがでしょうか。

ダダ漏れすぎる“副音声”が新鮮な新感覚ラブコメ!(原周平)

 毎月数百点も登場する新刊、手に取る作品はどれも面白くて、いつも萌えをありがとう……という気持ちですが、特に個性的でイチオシな作品に出会いました!

 それが、英子さん「副音声はうるさい十分に」(MUGENUP)

 タイトルの「副音声はうるさい」って何だろう、と思っていたのですが、まさかそのままだったとは――(笑)。他の作品とはまた違った感覚で読めて、めちゃくちゃ面白かったです!

 登場するのは、同じ会社に勤める野崎と西田、上司と部下の関係です。本作のキモとなる“副音声”は第1話目から早速炸裂しまくり! 野崎は水色、西田はピンク色で、心の声がナレーションのようにダダ漏れます。常にボリュームMAXの“副音声”を見れば2人は最初っから相思相愛なのが丸わかりなのですが、当事者たちはなぜか一歩引いたところで考えてしまっていて、絶妙にすれ違いが続いていくのが最高に笑わせてくれます。お互い大好きが(心の中では)溢れまくっているのに、なぜか都合のいい体の関係みたいになってしまい……。

©英子/MUGENUP

 野崎は落ち着いた大人の雰囲気、西田もできる部下って感じの顔立ちで、2人ともシュッとした表情を装いクールな感じのやり取りをしておきながら、正直過ぎる内心が“副音声”で書かれているという表現が新鮮です!

 恋愛に不器用な2人の気持ちが丸裸過ぎて、読者がエスパーになったような感覚。読んでいるこちらが要所要所で「なんでもっと素直に受け取らないの~!?」と思わずツッコミを入れてしまいがちに(笑)。表情と“副音声”のギャップに吹き出しつつも、それぞれの想いを知っているが故に切なくもなってしまい、読む側の感情も忙しいですよ(笑)。

 十分にうるさい(いい意味で)“副音声”ですが、話が進むにつれてうるささもどんどん増しているような……(笑)。畳みかけるようにセリフに被っちゃったり、もはやコマに収まっていなかったり、と決壊寸前の愛がちゃんと伝わる日が来るのでしょうか――!?結ばれたらそれはそれで“副音声”も大変なことになりそうですが(笑)。2巻に続くので、今後を見守りたいカップルがまた1組誕生しました。

 (難しいかもしれませんが)“副音声”を頑張ってあえて見ないようにして読むと、また違った味わいで2度楽しいと思います! 新感覚ラブコメ、ぜひ体験してみてください♪