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「ポケモンショック」に新たな分析 変化するメディアとの関係性

2021年のメカデミア国際会議の告知ページ(イラスト・宮下一真氏)

 6月上旬、ポップカルチャーのオンライン国際学術会議が開かれた。2006年に誕生したアメリカの国際学術ジャーナル「メカデミア」と私たちの国際マンガ研究センターが、2018年から2年に一度京都で開いている。

 コロナ禍で1年延期になった今回のタイトルは「Ecologies(エコロジーズ)」。ここでは環境的という意味だけではなく、メディアエコロジーやメディア生態学をも指す。北米や欧州、アジアから参加した73人の研究者による発表が行われた。

 シカゴ大学教授のトーマス・ラマール氏は「メディアエコロジー テレビとアニメーション」という題で基調講演した。講演では、1997年にアニメの「ポケットモンスター」を見た子どもたちがけいれんを起こした「ポケモンショック」について取り上げた。「部屋を明るくして、離れて見ましょう」という注意がアニメ番組の冒頭に入れられる契機になった出来事だ。

 ラマール氏は「テレビ画面の光の点滅で児童が光過敏性発作を起こした」という説が、科学者や政府、放送局、アニメ業界の議論をへて、唯一の定説のように受け入れられ、国内外で一気に波及していった過程を分析した。

 その上で、ポケモンショックを理解するためには他の要素も考慮されるべきだと指摘。光の点滅は、ゲーム機など、テレビ以外のスクリーンでも見られるため、テレビ画面だけの問題だとは言えない。さらに、大人がテレビ番組やゲームに反応し、光過敏性発作を起こした例も報告されている。

 ラマール氏は、ポケモンショック=テレビアニメと子どもの問題という考えについて、膨大なメディアに対する観点と医学以外の学問からのアプローチを排除した、一つの狭い解釈に過ぎない可能性があることを示唆した。

 20年以上経ち、メディアが複雑になる中、メディアと人間社会の関係性は多面的に考察されるべきだというラマール氏の主張には説得力がある。

 会議で、メカデミアが今後は国際学会になることが発表された。ポップカルチャーの国際学会が少ない中、メカデミアは世界中の研究者に成果発表と学術交流の場を提供してきた。この先、国境を超えた研究ネットワークのさらなる発展に期待したい。=朝日新聞2021年6月22日掲載