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「北極探検隊の謎を追って」書評 仮説と検証、真実に迫る

評者: 行方史郎 / 朝⽇新聞掲載:2021年06月26日
北極探検隊の謎を追って 人類で初めて気球で北極点を目指した探検隊はなぜ生還できなかったのか 著者:ベア・ウースマ 出版社:青土社 ジャンル:紀行・旅行記

ISBN: 9784791773572
発売⽇: 2021/03/26
サイズ: 19cm/305,11p

「北極探検隊の謎を追って」 [著]ベア・ウースマ

 124年前、3人のスウェーデン人が乗った気球は数日間で北極を横断するはずだった。ところが、出発直後に制御不能に陥り、3日後に氷上に不時着。そりを引いて歩き、2カ月半かけて無人島にたどりついた後に命が絶える。
 33年後、白骨化した遺体とともに日誌が見つかり、3人の足取りは判明した。だが、死因は定かでない。医師でもある著者は、考え得る12の死因を再検証し、最後の瞬間の真実に迫る。
 捕まえたホッキョクグマの肉を食らい、水たまりに落ちつつ氷上をさまよう。絶望的な行程でしかないはずだが、日誌からは意外にも楽観や希望がみてとれる。驚くことに自らを支援した国王の即位記念日にはアザラシのステーキとワインで祝宴まで上げている。
 地球にはまだ未踏の地があり、命をかけた挑戦が英雄視されていた。著者の描くストーリーからは、死を前にした自然への謙虚さとそれでもなお軸を失わない冒険者の矜持(きょうじ)を感じる。