生まれつき弱視で、12歳でほとんど視力を失ったスーダン出身のモハメド・オマル・アブディンさん。紛争中の母国を離れ、19歳で日本に留学。今では日本語で自在にエッセーも書くアブディンさんが、いかにこの外国語を身につけたか。『日本語とにらめっこ 見えないぼくの学習奮闘記』は、日本語教育学の研究者である河路由佳さんが聞き手となって、20年の軌跡を振り返る。
点字で「あいうえお」を学び、油粘土を彫って漢字の形を覚え、録音図書で日本文学を聴く。ボランティアの女性やホームステイ先の家族の助力もあり、めきめきと上達していくアブディンさん。ダジャレ好きの語りは軽妙だ。
普段、日本語を「聴いている」アブディンさんの「日本人がカタカナを読む時は、ひらがなを読む時と違う、ちょっとした苦しさがあ」るという洞察は新鮮。お酒や戦争、父の話など、母語のアラビア語では書きにくいことが、日本語だからこそ書けたという話も印象に残る。デビュー作『わが盲想(もうそう)』もおすすめ。(板垣麻衣子)=朝日新聞2021年7月3日掲載