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「拠るべなき時代に」書評 含羞の人による安定した視点の文章

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2021年07月17日
拠るべなき時代に 自選エッセイ集 著者:後藤 正治 出版社:ブレーンセンター ジャンル:エッセイ

ISBN: 9784833904087
発売⽇: 2021/04/08
サイズ: 20cm/379p

移植医療の歳月、寡黙な知の大家・山崎正和、古書店の家族史…。ノンフィクション作家・後藤正治が自ら選んだ近年の時評・人物論・作家論・書評・エッセイ等を収録する。【「TRC …

「拠るべなき時代に」 [著]後藤正治

 著者の取り上げるテーマは作家論、スポーツ、医療、庶民生活など幅広い。何よりその視点が一定の枠で落ち着いているので、考えさせられることが多い。その視点には「含羞(がんしゅう)」という語が、自らの規範として重ね合わされる。この語は矜持(きょうじ)、黙契、庄内弁のカタムチョ(頑固)などと言い換えられることもある。
 藤沢周平、司馬遼太郎、向田邦子、ドナルド・キーンらの作家像のスケッチ、平尾誠二、野村克也らスポーツ選手との交流、そして書評をまとめた本書は、著者のエッセーに惹(ひ)かれる読者へのいくつものメッセージを伝える形になっている。
 本書のタイトルは、3ページの短いエッセーからとっている。時代が強い指導者を歓迎する方向に向かっている今、「目を広く開き、自身のアタマでモノを考え、理性をもって対処する」という平凡で当たり前のことが求められている。私たちは、非寛容を許してはならない、という姿勢を日々の生活の中で試されている。