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山本大平「トヨタの会議は30分」 自らの責任で情報を選択する覚悟が必要

 世界的に知られる企業名とシンプルな仕事術をかけ合わせたタイトルは、ヒットするビジネス書の定番だ。これまでも、座らずに立って会議をするとか、企画書は紙1枚でまとめよ、といった主張で人気を博したビジネス書がある。

 本書は、日本を代表する自動車メーカーと、その会議が非常に短いことを伝えるタイトルが目を惹(ひ)き、つい手に取ってしまう工夫がある。それだけ、長い会議に辟易(へきえき)している人が多いのだろう。私も、数十人が出席する会議で誰も発言しないような場面に遭遇することはよくある。

 著者は新卒でトヨタ自動車に勤務、テレビ局やコンサルティング会社を経て独立した人物だ。自身の経験を率直に綴(つづ)り、仕事の本質を平易な言葉で綴る。社交辞令抜きで本音をぶつける組織文化があるからこそ、トヨタの会議は30分で終わるのだ、という。

 例えば、著者が忙しい上司から1分だけ時間をもらい、仕事で必要な了承を得るくだり。著者は、上司が意思決定するのに必要な情報を紙1枚にまとめ、一目で課題と了承を得たい項目が分かるようにしたそうだ。

 これは簡単なことではない。ビジネスの現場には、責任逃れのための曖昧(あいまい)な言い回しや表現があふれており、それらを盛り込むと文書も会議も長くなるからだ。仕事のコミュニケーションを紙1枚、会議30分ですませるには、必要最低限の情報を、自らの責任で取捨選択して伝える覚悟が必要だ。多くの場合、これができていない。無駄に長い会議、電話ですむ案件でZoom会議を設定する、やたらに丁寧なメール、会議で全く発言しないのに一応同席する人々。これらは「責任を取りたくない」と逃げる気持ちから生まれる。

 コロナ以降、テレワークが多少は進んだとはいえ、日本の組織にはこうした無駄がまだ多い。何とかしたい、と考えるビジネスパーソンが少なくないからこそ、本書がヒットしているのだろう。=朝日新聞2021年8月14日掲載

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 すばる舎・1430円=6刷7万部。4月刊。社会に出たばかりの若者向けに書かれたビジネスコミュニケーション術の本だが、30~40代男性を中心に幅広く読まれている。