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【記者推し】竹本健治さん『闇に用いる力学』がついに完結 今の日本とシンクロする、現代の黙示録

『闇に用いる力学』(光文社、「赤気篇」3300円、「黄禍篇」「青嵐篇」各4400円)

 企(たくら)みに満ちたミステリーで知られる作家、竹本健治さんの『闇に用いる力学』(光文社、全3巻)がついに完結した。連載開始から26年、1997年の第1部「赤気篇(へん)」に全面改稿を施し、「黄禍篇」「青嵐(せいらん)篇」と同時刊行、総ページ数1800余に及ぶ大作だ。

 物語は序盤から東京に異変が続出する。人喰(く)い豹(ひょう)の出没、不可解な航空機事故、子供たちの失踪、宗教団体の乱立……。やがて、失踪した子供たちを超能力の持ち主と指摘するうわさが流れ、高齢者を狙いうつかのような未知の致死ウイルスが流行するなか、国家救済のための施策として、老人の排除を主張する「ウバステリズム」の考えが広まっていく。

 様々な事象はなぜ、誰が、何のために起こしているのか。超能力者、雑誌記者、刑事、宗教団体といった登場人物一覧に並ぶ100人を超す人々はそれぞれに、心理学、生命科学、物理学、神秘思想などの知識を披露しながら推理を繰り広げるのだが、誰が敵か味方もわからないなか、ともすれば安易な陰謀論のわなに絡め取られていく。明快な結論が出ないまま、視点人物が次々と変わる展開に、読み手もまた困惑とともに、奇妙な酩酊(めいてい)感に襲われるはずだ。

 先の世紀末が舞台だが、パンデミックや異常気象による災害など、描かれている事象は驚くほどいまの日本とシンクロしている。まさに現代の黙示録、とは言い過ぎだろうか。(野波健祐)=朝日新聞2021年8月18日掲載

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