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小沢信男「暗き世に爆ぜ 俳句的日常」 やっぱり私は、この世がいいね

 3月3日、93歳でなくなった作家の小沢信男さん。絶筆を含む、単行本未収録のエッセーを編んだ『暗き世に爆(は)ぜ 俳句的日常』が刊行された。題名は、奇矯な出版人・宮武外骨を詠んだ句から。中心は、雑誌「みすず」の連載「賛々語々」だ。季節や世相を、古今の俳句とともに自在に描く。

 竹久夢二の句を引き、「おどろいたなぁ」と書いたのは昨春。「小中高校一斉休校とは。お邸(やしき)町や別荘で家庭教師をつけておける階層の方々には、コロナ除(よ)けの一刀両断的な対策かもしれないが。共働きの親たちの狼狽(ろうばい)や、学童保育所で濃厚接触の子供らや、あれもこれもどこ吹く風の想像力欠如。つまり知性も人情も不足でした」

 死んだらどこへ行きたいか。3年前、永井荷風の句をうけて、こう書いた。「やっぱり私は、この世がいいね。もはや日に三度の飯を食う面倒もなしに、あの街この街を気ままに歩き、そこらの石段に腰掛けたりしていられる。すると、あの並木道や街角で、先に逝った彼や彼女たちにばったり出逢(であ)う、ことでしょう」(石田祐樹)=朝日新聞2021年9月18日掲載