庵野秀明の軌跡を貴重な資料で
本展では、庵野さんのアマチュア時代から現在までの直筆のメモやイラスト、独自の映像を作るための脚本、原画、ミニチュアセットなど膨大な制作資料を見ることができます。「庵野秀明をつくったもの」「庵野秀明がつくったもの」「そして、これからつくるもの」をコンセプトに、全5章で構成されています。
会場に入ると、仮面ライダー1号のスーツを着た若かりし頃の庵野さんのパネルが。壁には自画像や、妻で漫画家の安野モヨコさんが描いた庵野秀明像も飾られています。
50年前にタイムスリップ
第1章「原点、或いは呪縛」では、1960~70年代に放送された「仮面ライダー」「帰ってきたウルトラマン」「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」の世界が目の前に広がります。これらはすべて、庵野さんが今も愛してやまない作品です。縦3m×横15mの巨大なLEDスクリーンには、庵野さんに影響を与えた数多くの作品が映され、「庵野秀明をつくったもの」が何なのかを実感できます。
宮崎駿に才能を見出される
第2章「夢中、或いは我儘」からは、「庵野秀明がつくったもの」の展示が始まります。学生時代に制作した日本SF大会のオープニングアニメーションや、実写特撮映画が見られます。これらによって実力が認められた庵野さんは1982年、テレビアニメ「超時空要塞マクロス」にアニメーターとして参加しました。自主制作映画のスキルも向上し、スタジオジブリの宮崎駿監督に才能を見出されます。
宮崎さんは映画「風の谷のナウシカ」(1984年)の重要シーンの原画を、庵野さんに任せました。プロの現場で原画制作に挑む庵野さんの姿が、資料から見えてきます。プロとして初めて監督したアニメ「トップをねらえ!」(1988年)の展示もあります。
1990年には、ピンチヒッターとして「不思議の海のナディア」の総監督を務めました。当初の企画を大幅に変え、SF要素の強い斬新なアニメにして大成功を収めます。色とりどりの台本には庵野さん直筆の文字も書き込まれています。
アニメ史を変えた「エヴァ」
テレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の放送が始まったのは1995年のことでした。庵野さんは監督・脚本を手掛け、それまでのロボットアニメとは一線を画す難解なストーリーと新しい演出で、社会現象を巻き起こします。エヴァが今も熱狂的なファンを獲得し続けているのは知ってのとおり。エヴァの企画書やキャラクターの設定資料の前には人だかりができていました。隅々まで詳しい設定が肉筆で書き込まれています。
この第3章「挑戦、或いは逃避」には、実写や特撮に関する映像や資料もあります。映画「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」(1997年)の公開後、庵野さんは久しぶりに実写映画を制作したのです。
実写・特撮映画、そして結婚
庵野さんは実写映画である「ラブ&ポップ」(1998年)や「式日」(2000年)、「キューティーハニー」(2004年)の特撮映像によって、アニメ制作だけでは得られない感覚をつかみます。
また2002年には、漫画家の安野モヨコさんと結婚。二人の夫婦生活が描かれた漫画『監督不行届』(安野モヨコ/祥伝社)のコーナーには、原画のほか、ベアブリックとコラボして作られたフィギュアなどが飾られています。
「シン・エヴァ」公開までの道
2007年、庵野さんは新たなエヴァの世界を生み出します。エヴァの新劇場版4部作(:序、:破、:Q、シン・)が始まるのです。新劇場版はテレビアニメのエヴァをデジタル技術を用いて再構築したもので、テレビでエヴァを見ていなかった世代をも夢中にさせました。エヴァの主人公・碇シンジは14歳。彼と同じ年月をエヴァの新劇場版は歩み、2021年、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」をもって物語は完結します。
大きなミニチュアセットは「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の舞台である村の中心部で、実際にある場所を取材して作られました。映画の制作陣はこれを使って、さまざまなカメラアングルで撮影するという手法を用いました。リアルで迫力のある映画にするために重要な役割を果たしたのがこのミニチュアセットで、実物を間近で見ることができます。
50年の時を超えて
第4章「憧憬、そして再生」では、今後公開予定の新作「シン・仮面ライダー」と「シン・ウルトラマン」の貴重な資料が見られます。「仮面ライダー」も「ウルトラマン」も、約50年前にテレビで放送された特撮のヒーローですが、庵野さんの手によって現代にどうよみがえるのか。少年時代から庵野さんを魅了し続けている作品だけに、期待が高まります。
アニメ・特撮文化に恩返し
最後の第5章「感謝、そして報恩」では、自らを育んだ特撮やアニメへの恩返しとして、CGアニメーションや背景美術のスタジオを設立し、文化を次世代に繋ぐ活動をしている庵野さんの新たな一面を知ることができます。「僕らがいなくなってもアニメや特撮が残るようにしたい」という思いが伝わってきます。
筆者は展示会場に約2時間半いました。「庵野秀明」を冠した大規模な展覧会は、今後あるかどうかわからないそうです。会期終了までにぜひその世界観を堪能してください。