65歳、映画はじめます。
65歳の茅野うみ子は、夫と死別し、四十九日が過ぎたばかり。ご近所さんの「そろそろ趣味を見つけたら」という話題から逃れるようにして、数十年ぶりに近くの映画館に入ります。
上映中、夫との初めてのデートで映画館に行ったことを回想するうみ子。「貴方は映画が好きなのではなく 映画を観てる人が好きなんですね」。映画よりも客席が気になってしまう彼女に、かつて夫がかけた言葉を思い出します。久しぶりの映画鑑賞でも、うみ子はこっそりと観客へ視線を運びます。すると、後ろの座席にいた若者と目が合い……。
若者は、映像を専攻する美大生の海(カイ)。スクリーンではなく客席を気にするうみ子に、自分もその気持ちが分かる、と話しかけます。うみ子はやや強引に海を誘い、自宅で映画のビデオを一緒に見ることに。そこで海から投げかけられた言葉をきっかけに、自分は「映画を撮りたい側」の人間なのだと気づきます。
私が映画を撮るならば――。衝動に突き動かされ、うみ子は海と同じ美大に入学。大きな波に流されるように創作の世界へ足を踏み入れていきます。
いつだって、誰だって、船は出せる
『海が走るエンドロール』は秋田書店刊行の月刊ミステリーボニータ(毎月6日ごろ発売)に連載中です。コミックス第1巻の発売日に作者のツイッターで第1話の試し読みが公開されると、たちまち28万「いいね」を獲得し、非常に大きな反響を呼びました。このたび、宝島社「このマンガがすごい!2022」オンナ編第1位に決まった話題作です。
本作にはタイトルや登場人物の名前をはじめ、海のモチーフが創作の世界を象徴するようにたびたび登場し、非常に強い印象を残します。特に、主人公・うみ子の心の動きを押し寄せる波で表現した描写には、読者であるわたしたちの感情をも巻き込み、物語に引き込まれることでしょう。
何かを始めるのに遅すぎることなんてない。映画を撮ろうと動き出すうみ子の生き生きとした姿に背中を押される読者も多いはずです。うみ子は作中、作る人と作らない人との境界線は「船を出すかどうか」で、「誰でも船は出せる」と海に語ります。これからどんな人生を歩み、そしてどんな映画を撮るのでしょうか。小さな船で映画制作という海に出たうみ子から目が離せません。
『海が走るエンドロール』は既刊1巻で、第2巻が2022年2月16日に刊行予定です。
たらちねジョンさんインタビュー
好書好日では、作者のたらちねジョンさんに受賞の喜びや作品への思い、キャラクターやストーリーなど創作の裏側についてインタビューしました。
「自己投影をしている比重が高い漫画なので、否定された時に、やっぱ打ち砕かれやすいというか、心にズカンとくる割合が高いです。今回の作品は『否定されたくないけど、発表しなきゃいけない』『でも、やるしかない』という気持ちで描いてます」
メルマガ読者10人にプレゼント
『海が走るエンドロール』を好書好日メルマガ読者10人にプレゼントします。応募にはメルマガの登録が必要です。応募フォームから登録できます。締め切りは2022年1月7日正午。