もはや人類の半数が気分障害といわれ、自殺率に歯止めがかからない。そんなこの惑星のありさまを見かねた宇宙人が、人類にもたらした福音、それはもふもふの毛皮に包まれた小動物のようなペットだった――。というわけで、耐えがたい苦痛の中にいると認められた人には、かわいい宇宙生物のペットが配給され、それをもふもふすることで癒やされて、どうにかバランスを保とうとしている世界を描くSF作品だ。
コミカルな設定と、軽いリズムで展開する表現の見かけとは裏腹に、読み進むほどに、ずっしりとした手応えが伝わってきて、1冊を読み終えるころには不思議な切迫感に心を揺さぶられていた。扱っているテーマは人の心の苦しみに関する重いものだ。それを正面から重々しく描くのではなく、どこかおちょくり気味の戯画化した世界で描く著者の姿勢からは、むしろ真摯(しんし)なものが伝わってくる。こんなにも軽くて重いマンガを読んだのは久しぶりだ。
昔から人類の心を癒やしてきたものといえば、やはり宗教だろう。この世界にも奇妙な宗教が広がっていて、謎めいた設定が見え隠れしているが、第1巻ではまだ先は見通せない。続刊が楽しみだ。=朝日新聞2021年11月20日掲載