私たちは便利な社会を生きており、つい、お金さえあればワンクリックで何でもモノが手に入れられるような感覚を持ちがちだ。しかしその裏側には必ず人の労働があり、人が動けなければお金があっても経済は動かない。コロナ禍で一時製造や物流が混乱したとき、改めてそのことに気づかされた人も少なくないはず。本書は、敢（あ）えて「お金」を使わず「人の労働」の動きで経済を捉えようとする画期的な経済書だ。
例えば、日本全体を覆っている老後の不安は、年金財政という「お金」の問題というよりむしろ「人の労働」の問題だ。高齢化により日本全体で働けない人の割合が上昇すると、残った人だけで介護や医療も含むあらゆるモノやサービスを生み出さなければならない。このため著者は将来働く人を増やすよう社会全体で子どもを育てることの重要性を説く。これに加えて、女性や高齢者、障がい者なども含めあらゆる人が働きやすい社会をつくることも大事だ。
本書は「人の労働」にフォーカスすることで難しい専門用語を使わずに社会問題の構図を鮮やかに描き出す。経済の話をなかなか自分事にできない人も本書を読めばきっと経済の見方が変わるはずだ。＝朝日新聞2021年11月20日掲載
