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川島秀一「宮田登 民俗的歴史論へ向けて」 災害・疫病、都市の不安を見渡す

 海のかなたからやって来て、流行病をもたらす強力な「厄神」。でも、人々はただ恐れ、逃げまわっていたわけではなかった。

 「恐るべき神霊の力を認めたうえで、てい重(ちょう)に厄神を迎える。しかるのち、神を鎮撫(ちんぶ)しつつ、共同体の外部へと送り出す」「こういう巧妙な知恵ともいうべき発想は、主として江戸時代の都市の民衆によるものであった」と書いたのは、民俗学者の宮田登(1936~2000)だ。

 この「祀(まつ)り棄(す)ての論理」を含む18編の文章で、民俗学と歴史学をつなぐ仕事の全体像に迫るアンソロジー『宮田登 民俗的歴史論へ向けて』が刊行された。川島秀一編。

 柳田国男が中心的な課題にしなかった「災害」や「疫病」をはじめ、差別、女性、都市の不安、流行神、妖怪などを広く見渡す。

 妖怪は「自らの存在理由を誇示せざるを得ない状況に立ち至っており、何らかの意味を人間に伝えようとしている」。そのメッセージをどう受けとるか。不可思議と切り捨てず理解しようとする、穏やかな顔を思い出す。(石田祐樹)=朝日新聞2021年11月20日掲載