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小佐野彈さん「僕は失くした恋しか歌えない」「歌集 銀河一族」インタビュー がんじがらめ、ほどいた

小佐野彈さん=菊池康全撮影

 自身のセクシュアリティーに悩んだ青春時代を投影した小説と、ルーツを見つめる歌集を同時に出した。ともに描かれているのは枷(かせ)のようにつながれた足紐(リーシュ)を外し、自立していく青年の姿だ。「ほとばしる思いは小説以上に歌に出た。自分の醜さも全部歌に入っていた」と振り返る。

 同性の先輩に恋心を抱いた中学2年の時、道ならぬ恋を詠んだ俵万智さんの歌集に救われ短歌を作り始めた。2018年に出した第1歌集で歌壇の芥川賞とも言われる現代歌人協会賞を受賞。物語性のある連作から小説の執筆を勧められ、2冊目の今作は現代版「伊勢物語」をめざして歌を随所に織り込んだ。「この小説が短歌への入り口にもなってくれればうれしい」

 〈メデューサのようにはだかり女教師(せんせい)は咎めき僕の性のゆらぎを

 告白後の気まずさや予期しない形での母へのカミングアウト。「ゲイだと知られたくない」という恐れの背景には「家」という枷もあった。

 〈金色の渦のさなかに暮らしをり 小佐野家、または銀河一族

 国際興業グループの創業者・小佐野賢治氏は大伯父で、後継の祖父が事業を発展させた。小説は、04年に株式を手放さざるを得なくなり「御曹司」の枷が外れるまでを描く。「親や周囲の期待を勝手に増幅させ、自分でがんじがらめにしていたと気付いた。自分の性的指向もようやく受け入れられるようになった」。

 慶応の大学院在学中に台湾に居を移して10年に起業し、約10カ国で「TSUJIRI」ブランドのカフェを展開。17年にCEOを退き、いまは会長職という経営者の顔も持つ。恵まれていると自覚する一方「なお潤うことのない、心のなかの灰色の点」が創作へと向かわせる。今年はいよいよ小佐野家の物語に挑む。(文・佐々波幸子 写真・菊池康全)=朝日新聞2022年1月22日掲載