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実感できたアートの楽しさ 絵本作家・宮西達也さん@高知・黒潮町立拳ノ川小学校

拳ノ川小学校のみなさんが巨大なティラノサウルスの絵と横断幕を準備して歓迎してくれました

「読んで、読んで!」の大合唱

 先生の注意も聞かず遊びに出かけた3匹の子ネズミ、怖い顔で「にゃーご!」と叫ぶ大きなネコに出くわして…。絵本『にゃーご』(鈴木出版)は2年生の教科書にも載っている、宮西達也さんの作品だ。

 これを作者本人に読んでほしいというリクエストに応えた形で、授業は始まった。

 「35年前に作った本なんだよ」という説明に驚きつつも、怖いもの知らずの子ネズミたちのふるまいや、ネコが赤面する場面に「アハハ!」。極めつきはネコの声で、宮西さんは会場の体育館を震わす勢いで「にゃあ~ごぉ~!」と絶叫。みんなの度肝を抜いた。

 他にも「読んで、読んで!」の大合唱で、『はらぺこヘビくん』(ポプラ社)、『はーい!』(アリス館)、『うんこ』(鈴木出版)を読み聞かせ、気がつけば参観の保護者たちも「アハハ!」。宮西ワールドに引き込まれていた。

 宮崎希羽(ののは)さん(3年)は、「迫力いっぱいだった! 宮西さんはこんな感じで読むんだとわかって、すごくよかったです」。

へんてこなモノを描こう

 授業の第2部は工作だ。一人ひとりに額が配られ、ふちにアクリル絵の具で好きな模様をつける。さらに、段ボール紙にオレンジと黒、2色の油性ペンで絵を描くのだが、「へんてこなモノを描きましょう!」と宮西さん。

 見本として「へんてこな宇宙人を描いてみました」と見せると、「星や月でもいい?」と質問が。「いいよ、動物でも身の回りのモノでも何でも」。すると、歩く魚、タイヤに顔がある自動車、水玉模様のバナナなど、見たことがないへんてこなモノが続々と。

 「もっとオレンジを使おう」「遠慮しないでどんどん描いて」

 宮西さんに励まされ、やがて紙がぎっしり絵で埋まった。

 これを額に入れて完成かな?と思ったら、「今度はハサミで絵を切り離して!」。

 「やべ、手が痛い」

 「ぎゅうぎゅうに描いちゃった」

 段ボール紙の意外な硬さにぼやきながらも、子どもたちハサミを使う。てこずる子には宮西さんがサポート。「おおまかに切り離してから、細かい部分を切るといい」。先生や保護者も手伝いに入り、学校あげてのワークショップとなった。

「へんてこなモノ」を段ボール紙に次々と描いていく児童たちを、楽しそうに見守る宮西さん

うまく描けなくても問題ない

 全部切ったら仕上げだ。自分の絵と額を宮西さんのところに持っていく。宮西さんは用意しておいた小さな台紙を、一つ一つの絵の裏に接着剤でつけ、

 「(※額の中の)どこに貼る?」

 「ここがいい」

 「はみだしそうだけど、貼りたいよね~」

 子どもたちと相談しながら額に貼り付けていく。

 絵の作業中は、自分の作品に自信を持てずにため息をつく子もいたが、出来上がりを見て大喜び。宮西さんのレイアウトで絵が生き生きと存在感を増し、台紙をつけたことで絵が浮き上がって立体感も出て、平面に描いていたときには思いもよらなかった迫力ある傑作に。

児童が描いて切り抜き、宮西さんが配置を考えて貼り付けた、一期一会の段ボールアート作品のできあがり。額縁も児童たちがデザインした

 掛橋凛汰朗くん(2年)は、「工作はむずかしいと思ったけど、ヘビネコを思いついてから楽しくなって、宮西さんにも『いいね!』って言われてうれしかった」。

 額縁を独創的な文字で飾ったところから目を引いていた藤本銀慈(ぎんじ)くん(6年)は、「絵は時間があったらあと1、2枚は描けたと思う。自分でレイアウトするとしたら…もっと個性的にしたい」と、さらなる意欲をみせた。

 接着剤まみれの指を拭きながら宮西さんは、「みんな、こんなの描いてどうするのって、思ったと思う」。確かに、使える色は2色だけだったし。「でも、色を整えたり、並べ方を変えたり、立体にすることで、飾りたい作品になったじゃない?」。

 宮西さんは絵の上手下手には注目していなかった。「ウサギやサルを上手に描けなくても問題ない。絵は描いて終わりじゃないってこと、わかってもらえたらいいな」。うまく描けないと思ったら今日みたいに、斜めにしたり、配置を変えたりしてごらん、とアドバイス。

 「だからどんどん描いて! 今日は楽しかったですか?」

 「はーい!」

 アートの片鱗に触れ、コンプレックスが吹き飛んだ一日となった。