コロナ禍で10代の妊娠相談が急増したという。中学校学習指導要領では受精や妊娠は扱うが〈妊娠の経過は取り扱わないものとする〉とある。つまりセックスについては教えないのだ。よって、若者だけでなくいい年した大人もAVを真に受けていたりする。
本作はそんなセックス後進国に一石を投じる。高校の入学式でコンドームを落とした男子・楠本と、それを拾って渡した女子。周囲をざわつかせたその一件により〈セックスマスター〉と認定された2人に、性に関する相談が次々持ち込まれることになる。
年の離れた兄からの英才教育で性知識豊富な楠本は、真面目な性格も手伝い、赤裸々な相談に真摯(しんし)に向き合う。過去の経験から男性との接触を忌避する彼女を傷つけてしまった生徒会長が、楠本の協力を得てぶちかました選挙演説は痛快かつ感動的だ。生理痛を扱ったエピソードの着地点もナイス。女性器の落書きをめぐる謎解きは、ちょっとした探偵ものの趣向もある。
セックスの問題にとどまらず、LGBTから児童虐待まで、射程は広く描写は丁寧。何でもあけっぴろげにすればいいとは思わないが、現状は隠しすぎだろう。若者はもちろん大人にも読んでほしい。=朝日新聞2022年2月19日掲載